浅野埋立

浅野埋立：京浜工業地帯の礎

浅野埋立とは、大正2年（1913年）8月から昭和3年（1928年）6月にかけて、浅野総一郎によって横浜市鶴見区と川崎市の沿岸で行われた大規模な埋立事業です。この埋立地は、後の京浜工業地帯の発展に大きく貢献しました。

欧米視察と東京港築港の夢

浅野財閥の創始者である浅野総一郎は、明治29年（1896年）から明治30年（1897年）にかけて欧米の港湾を視察し、日本の港湾施設の遅れを痛感しました。欧米では大型船が岸壁に直接横付けし、機械力で迅速に荷役が行われていましたが、当時の日本の港は水深が浅く、沖合に停泊した船から艀を使って人や荷物を運ぶ必要がありました。この現状を打開するため、浅野総一郎は埋立築港事業を決意し、明治32年（1899年）に東京に品川湾の埋立計画を申請しましたが、許可は下りませんでした。

鶴見・川崎での再挑戦

東京での計画が頓挫した後も、浅野総一郎は諦めませんでした。横浜と東京の間の海岸線を自ら何度も踏査し、遠浅な地形が埋立に適していること、東海道本線が近く物流や労働力の確保が容易であることを確認しました。さらに、港湾工学の権威であった東京帝国大学の広井勇教授に協力を依頼し、詳細な調査を経てお墨付きを得ました。明治37年（1904年）には鶴見・川崎沿岸での小規模な埋立を、明治41年（1908年）には150万坪に及ぶ大規模な埋立事業を神奈川県に申請しました。後者の設計は、台湾で高雄港を建設した山形要助に依頼し、運河や防波堤を備えた理想的な工業地帯を建設する構想でした。しかし、大規模な事業であったため、他の有力者の連署が必要となり、浅野総一郎は安田財閥の安田善次郎に協力を求めました。安田は慎重に調査を行った結果、事業の有望性を確信し、共同で事業を進めることになりました。

埋立工事の開始と発展

大正元年（1912年）に漁業権交渉が妥結し、大正2年（1913年）1月に埋立許可が下りました。同年8月には工事が開始され、大正3年（1914年）には鶴見埋築株式会社が設立されました。当初は輸入したサンドポンプ船の能力不足に悩まされましたが、後に高性能なサンドポンプ船を導入し、工事は順調に進みました。川崎では浅野セメント工場が、鶴見では旭硝子の工場が建設されるなど、埋立地には様々な工場が進出しました。浅野総一郎自身も毎朝現場に足を運び、工事の進捗を監督しました。

関東大震災と復興、そして完成へ

大正12年（1923年）の関東大震災では、埋立地の工場も被害を受けましたが、東京に比べると軽微でした。その後、復旧作業が進められ、大正14年（1925年）には完成埋立地が100万坪を突破しました。昭和2年（1927年）6月、154万坪の埋立工事が完了し、昭和3年（1928年）6月には防波堤や錨地などの付帯施設も完成し、浅野埋立は完成しました。

インフラ整備と地名

浅野総一郎は、埋立地の電力供給のために発電所を建設し、水道会社を設立して給水を開始しました。また、埋立地の工場と東海道本線を結ぶ鶴見臨港鉄道（現在のJR鶴見線）を設立し、物流を円滑にしました。埋立地の地名は、浅野総一郎や安田善次郎など、事業に貢献した人々の名前にちなんで名付けられました。

その後

浅野総一郎の死後、浅野財閥は埋立地の売却を進めましたが、世界恐慌の影響もあり、経営は苦戦しました。しかし、昭和8年（1933年）以降は景気回復とともに売却が進み、多くの工場が立地する一大工業地帯へと発展しました。浅野埋立は、京浜工業地帯の基礎を築いた事業として、日本の産業史に名を残しています。

もう一度検索