安田善次郎

安田善次郎：近代日本を築いた実業家

安田善次郎（1838年 - 1921年）は、安田財閥の創始者として知られる日本の実業家です。彼は、金融業を基盤に、鉄道、不動産など多岐にわたる事業を展開し、日本の近代化に大きく貢献しました。その生涯は、勤勉と質素を旨とし、社会への貢献を重んじたものでした。

生い立ちと起業

安田善次郎は、富山藩の下級武士の家に生まれました。幼い頃から商才を発揮し、25歳で独立して安田商店を開業しました。当初は乾物と両替を商っていましたが、やがて安田銀行（現在のみずほフィナンシャルグループ）を設立し、金融業に進出しました。その後、損害保険会社（現在の損害保険ジャパン）、生命保険会社（現在の明治安田生命保険）、東京建物などを次々と設立し、安田財閥の基礎を築きました。

北海道開拓への貢献

安田善次郎は、北海道の開拓にも大きく貢献しました。1870年代には、北海道初の私鉄である釧路鉄道を敷設し、硫黄鉱山の開発や硫黄の輸送を行いました。また、釧路炭田（後の太平洋興発の前身）を開発し、北米への硫黄輸出のために釧路港を特別輸出港に指定させました。さらに、根室銀行（現在のみずほ銀行釧路支店）を設立し、釧路の発展に大きく貢献しました。釧路の硫黄鉱山経営と輸出によって金融財閥家としての基礎を築いたと言われています。

社会貢献と慈善事業

安田善次郎は、社会貢献にも熱心でした。同郷の浅野総一郎（浅野財閥の祖）の事業を支援し、鶴見臨港鉄道（現在の鶴見線）の設立に尽力しました。また、日本電気鉄道や帝国ホテルの設立発起人となり、東京電燈会社や南満洲鉄道にも参画するなど、国家運営にも深く関わりました。東京市に慈善事業費として300万円を寄付したほか、東京帝国大学に講堂建築費として100万円を寄付しました。早稲田大学にも寄付し、学苑最初の校賓に推されています。

突然の死

1921年9月28日、安田善次郎は神奈川県大磯町の別邸で、朝日平吾という男に刺殺されました。朝日は、安田善次郎を「奸富」と断じ、その富豪としての責任を果たしていないことを理由に天誅を下したとされています。この事件は、当時の社会に大きな衝撃を与えました。

死後の影響

安田善次郎の死後、その遺志は引き継がれ、東京大学の安田講堂や日比谷公会堂、千代田区立麹町中学校校地などが寄贈されました。これらの寄贈は、生前の安田善次郎が匿名で行っていたものであり、彼の死後にその功績が明らかになりました。また、富山市には安田善次郎の生家跡に安田公園が整備され、東京都墨田区には旧安田庭園が一般公開されています。

人物像

安田善次郎は、「五十、六十は鼻たれ小僧 男盛りは八、九十」という言葉を残しており、晩年まで意欲的に事業に取り組んでいました。彼は、自らを「勤倹堂実行道人」と称し、質素倹約を旨としていましたが、見込みのある事業には徹底的に投資し、社会事業には惜しみなく寄付を行いました。また、芝居、相撲、囲碁、馬術、書画骨董、菊作り、茶道など多岐にわたる趣味を持ち、多くの人々との交流を深めました。茶人としても知られ、和敬会の会員として茶道を嗜んでいました。

安田善次郎は、日本の近代化に大きく貢献した偉大な実業家であり、その功績は今もなお語り継がれています。

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