浅野祥雲

浅野 祥雲

浅野 祥雲（あさの しょううん、1891年 - 1978年）は、日本が生んだ独自のコンクリート彫刻家です。本名を高次郎といい、その生涯と作品は、一般的な美術史の枠には収まらない、ユニークな存在感を放っています。

生い立ちと創作への道

明治24年（1891年）、祥雲は岐阜県恵那郡坂本村（現在の岐阜県中津川市）に生を受けました。父親は農業を営む傍ら、土人形を作る職人であり、幼い頃からものづくりの環境に触れて育ちます。やがて父の仕事を受け継ぎ土人形の製作に励みますが、より大きく、より存在感のある作品を生み出したいという思いから、素材を土からコンクリートへと転換することを着想したといわれています。

大正13年（1924年）、33歳を迎えた祥雲は名古屋に移り住み、映画館の看板を描くなどして生計を立てる傍ら、コンクリート像の制作を本格化させていきます。

作品の特徴と評価

祥雲が手がけたコンクリート像は、そのほとんどが身長2メートルを超える人物像、特に仏像や歴史上の人物などをモチーフとしています。硬質なコンクリートの表面には鮮やかなペンキで着色が施されており、その色彩も作品の印象を決定づける重要な要素となっています。

彼の作品の最大の特徴は、写実性と素朴さ、そしてユーモラスさが同居している点にあります。見る者に強い印象を残し、一度目にしたら忘れられない独特の雰囲気を持っています。こうした唯一無二の作風は、一部で熱狂的な人気を集めています。フリーライターの大竹敏之氏は、祥雲を「唯一無二のコンクリ仏師」と称しています。

大竹氏が確認しただけでも、現在までにおよそ800体もの祥雲作品が現存しており、その多くは一つの場所に集まって林立する形で設置されていることも特徴の一つです。

研究と保全活動

1993年頃から、フリーライターの大竹敏之氏は祥雲とその作品群に関する研究と紹介に尽力してきました。当初、作品の作者名以外の情報が極めて少なく、大竹氏は電話帳を頼りに「浅野」姓の人々に片っ端から電話をかけ続けるという困難な調査を経て、ついに祥雲の二人の娘さんと連絡を取ることに成功します。この取材を通じて、彼が美術学校に通わず独学で創作を続けたこと、そしてその頑固な人柄といった、作品の背景にある人間像が少しずつ明らかになっていきました。

祥雲の作品は屋外に設置されているものが多く、経年劣化や風雨による損傷は避けられません。こうした状況を受け、2009年には愛知県日進市の五色園において、作品の修復と保全を目的とした「浅野祥雲作品再生プロジェクト」が立ち上げられています。

主な作品現存地

祥雲のコンクリート像は、愛知県、岐阜県を中心に、各地の宗教施設やテーマパークなどに点在しています。代表的な設置場所としては、以下が挙げられます。

関ヶ原ウォーランド（岐阜県関ヶ原町）
五色園（愛知県日進市）
岩崎御嶽社（愛知県日進市）
桃太郎神社（愛知県犬山市）
中之院 軍人像群（愛知県南知多町）
厄除弘法大師（愛知県尾張旭市）
春日井駅前・弘法大師像（愛知県春日井市）
熱海城・シャチホコ（静岡県熱海市）
圓通寺・毘沙門天像（愛知県名古屋市）
久国寺・護国観音像（愛知県名古屋市）

特に、五色園、桃太郎神社、関ヶ原ウォーランドは、大竹氏によって「祥雲三大聖地」として広く紹介されています。

メディアでの紹介

祥雲のユニークな作品は、没後も様々なメディアで取り上げられています。例えば、2008年12月12日放送のテレビ朝日系番組『タモリ倶楽部』では、「偉大なる造型家 浅野祥雲 没後30年記念 大回顧展!!」と題してその魅力が特集されました。また、2015年4月8日放送の同局系番組『マツコ&有吉の怒り新党』でも、「新・3大 浅野祥雲作・コンクリート像の“忘れられない表情”」として紹介され、その特異な存在感が広く知られるきっかけとなりました。

浅野祥雲の作品は、美術史の教科書に載ることは少ないかもしれません。しかし、各地で静かに、あるいは雄弁に佇む彼のコンクリート像たちは、見る者に強烈な印象と、時に微笑み、時に畏怖といった多様な感情を与え続けています。その孤高ともいえる創作活動は、現代においても多くの人々を魅了し、語り継がれています。

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