浜本満

浜本 満（はまもと みつる）氏は、1952年10月に生まれ、日本の文化人類学界において重要な位置を占める研究者です。特にアフリカ文化の研究を専門とし、人々の日常生活における儀礼や占いの実践に光を当て、そこから社会や文化の論理、秩序の成り立ちを理論的に解明することを研究の中心に据えています。

その学究生活は、東京大学教養学部教養学科を1975年に卒業したことから始まります。同大学大学院社会学研究科文化人類学専攻に進み、1977年に修士課程を修了しました。大学院では、日本の文化人類学の第一人者である吉田禎吾氏らに師事し、深く学びました。さらに視野を広げるため、1978年にはノースウェスタン大学大学院へ留学。帰国後、東京大学大学院社会学研究科博士課程において1982年に単位を取得し、退学しました。その後、長年の研究成果を集大成し、2000年には一橋大学より博士（社会学）の学位を取得しています。

研究者としてのキャリアは、1982年に福岡大学人文学部の講師としてスタートしました。1984年には同大学の助教授に昇任し、教育・研究活動に従事しました。1991年からは一橋大学社会学部に移籍し、助教授を務め、1995年には同社会学部の教授となります。さらに2000年には、一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻の教授として、大学院生の研究指導にも力を注ぎました。2005年からは九州大学大学院人間環境学研究院の教授として、その研究・教育の場を九州に移しました。長年にわたる貢献が称えられ、2016年には一橋大学名誉教授、そして2018年には九州大学名誉教授の称号を受けています。

浜本氏の研究は、フィールドワークに基づいた詳細な民族誌記述と、理論的な分析を組み合わせることを特徴としています。特に、ケニア海岸地方のドゥルマ社会などを対象とした研究は高く評価されており、その成果は単著として結実しています。代表的な単著である『秩序の方法―ケニア海岸地方の日常生活における儀礼的実践と語り』（弘文堂、2001年）では、人々の日常的な振る舞いの中に見られる儀礼的な実践が、どのように社会的な秩序を生み出し、維持しているのかを明らかにしました。また、『信念の呪縛―ケニア海岸地方ドゥルマ社会における妖術の民族誌』（九州大学出版会、2014年）では、一見非合理に見える妖術への信念が、社会構造や人間関係の中でどのような意味を持ち、どのように機能しているのかを緻密な民族誌に基づいて分析しています。

単著以外にも、文化人類学の普及や発展に貢献する共編著や翻訳を多数手がけています。吉田禎吾氏らとの共編著『レヴィ＝ストロース』（清水書院）は、文化人類学の古典的な巨人を紹介する重要な著作です。また、妻であり同じく文化人類学者であった浜本まり子氏（故人）との共編著『人類学のコモンセンス―文化人類学入門』（学術図書出版社）は、文化人類学への平易な入門書として多くの学生に読まれました。太田好信氏との共編著『メイキング文化人類学』（世界思想社）は、現代の文化人類学の多様な展開を示すものです。翻訳書としては、リュック・ド・ウーシュの『アフリカの供犠』（みすず書房）や、ジェイムズ・クリフォードの『文化の窮状―20世紀の民族誌、文学、芸術』（人文書院）といった、海外の重要な研究書を日本に紹介し、国内の研究者や学生に大きな影響を与えました。

これらの長年にわたる研究活動と顕著な業績は、学界においても高く評価されています。2015年には、その功績に対して日本文化人類学会賞が授与されました。教育者としても熱心であり、神戸大学教授の梅屋潔氏をはじめ、多くの優れた文化人類学者を育成し、日本の文化人類学界の将来を担う人材の輩出に貢献しています。

私生活では、文化人類学者である浜本まり子氏と結婚しましたが、残念ながら2001年に先立たれました。彼女は学生時代、「宮田まり子」として作家の四方田犬彦氏の著作にも登場しています。

浜本氏は現在も研究活動を続けており、その学術的な探究心は衰えを見せていません。個人ウェブサイトも開設されており、研究に関する情報などを発信しています。

もう一度検索