浜松市麻雀店放火殺人事件

2009年（平成21年）11月17日午前3時30分頃、静岡県浜松市中区（現在の浜松市中央区）高丘東にある麻雀店「リーチ麻雀・金ちゃん」で火災が発生しました。火は瞬く間に燃え広がり、店舗として使用されていた建物の2階部分約211平方メートルを全焼させました。

この火災現場からは、男性客3名の遺体が発見されました。また、この火災で負傷し病院に搬送された男性4名のうち1名が、避難する際に頭部を強く打ったことによる脳挫傷が原因で亡くなっています。これにより、この事件による死者は合計4名となりました。火災発生当時、店内では男性客6名と従業員2名の合わせて8名が2階で麻雀をしていました。

現場周辺は、浜松駅から北西におよそ7キロメートル離れた、工場と住宅が混在する地域です。事件が発生する約1ヶ月前の10月14日には、同じ敷地内でタイヤ4本と店舗外壁の一部が焼ける不審火が発生しており、関連性が疑われています。

事件への社会的影響

この凄惨な事件を受け、各地の消防は同様の火災の発生を防ぐため、麻雀店などを対象とした緊急の立ち入り検査を実施しました。

静岡市: 市消防防災局は、管内にある麻雀店57店舗に対し緊急立入検査を実施。誘導灯や消火器の設置状況に加え、防炎カーテンの有無や調理場周辺に燃えやすい物が置かれていないかなどを確認しました。
松江市: 市消防本部は、市内の麻雀店を含む19施設を査察しました。そのうち2店舗では、火災報知機や誘導灯の設置状況、自動火災報知設備の有無などを重点的に点検。点検後には、「火事を見つけたら大声で知らせ、周囲の人々と消火、通報、避難誘導の役割を分担することが重要」と指導し、消火訓練も行いました。
福井市: 市消防局は、市内の麻雀店41店舗に緊急特別査察を実施。その結果、25店舗で消火設備の不備や消火訓練の未実施など、消防法違反が確認されました。違反内容としては、消火器の未設置や誘導灯の不備が14店舗、消火訓練未実施が9店舗、防炎カーテン未設置が16店舗に上り、消防局は違反店舗に是正指導を行いました。
福岡市: 市消防局は、飲食店などが入居する雑居ビルや麻雀店を対象とした緊急立入検査を実施。主に避難経路が適切に確保されているかを確認し、消火器の使用方法についても指導を行いました。

捜査状況

静岡県警察は、出火直前まで火の気がなく、火の回りが非常に早かったことから、放火事件と断定しました。浜松中央警察署に捜査本部を設置し、1ヶ月前の不審火も含めて捜査を開始しました。

出火当時、1階の正面玄関は施錠されており、出入りは勝手口からのみ可能な状態でした。出火直前の午前3時頃、2階にいた従業員が、当時無人だった1階の扉が開閉する音を聞いています。この音に気づいた従業員が1階へ下りようとしたところ、既に正面玄関付近の窓のカーテンが燃え上がっていました。火災が発生し、男性客と従業員が避難を試みましたが、階段からは高温の黒煙が噴き出し、階段を使って下りることは不可能でした。

一方で、出火の約1時間前の午前2時30分頃には、3人組の男が黒い乗用車を現場近くの駐車場にエンジンをかけたまま駐車し、近隣の飲食店と麻雀店の周辺を2回往復しているのを近所の住民が目撃していました。深夜から未明にかけては人通りが少ない地域であり、住民はこの状況を不審に感じています。また、出火直前には、野球帽を被り自転車に乗った不審な男が麻雀店周辺で目撃されています。

その後の捜査で、1階中央部に設置されていたストーブと電気配線は普段から点検が行われていたことが確認されました。また、焼け跡から見つかったおしぼりの切れ端や段ボール片から灯油の反応が検出されました。これらの状況から、捜査本部は、犯人が勝手口から店内に侵入し、1階の正面玄関付近で灯油を撒いて火をつけたと推測しています。さらに、事件発生当時、店内が薄暗かったことから、「ある程度店の事情を知っている人物による犯行」との見方も示されています。

しかし、店舗が全焼したことで多くの物証が失われ、出火原因の特定につながる有力な証拠が乏しく、目撃情報も少ないことから、捜査は難航しています。2019年（令和元年）の時点では、延べ3万2000人の捜査員が投入され、目撃情報の収集や確認作業を中心に捜査が進められていますが、現時点で事件解決の手がかりは掴めていません。

事件現場の現在

事件現場となった建物は、2010年（平成22年）3月に取り壊され、更地となりました。しばらくの間は火で黒焦げになった看板が残されていましたが、その後看板も撤去され、現在は住宅地の一部となっています。

この事件は、多くの犠牲者を出した痛ましい放火殺人事件でありながら、発生から10年以上が経過した現在も犯人は特定されておらず、未解決事件の一つとなっています。

もう一度検索