海の底の臼

海の底の臼

「海の底の臼」は、ノルウェーの民話であり、ペテル・クリスティン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーによって『ノルウェー民話集』に収録されています。この物語は、魔法の臼が富をもたらす一方で、人々の欲望を制御できなくなり、最終的には海の塩辛さの起源となる様子を描いています。

あらすじ

物語は、クリスマス・イブに貧しい男が兄から施しを受ける場面から始まります。兄は弟にハムを与える代わりに、ある条件を課します。それは、弟に「地獄へ行け」と言うことでした。約束を守るため、弟は地獄へ向かいます。途中、老人に会い、食物を分け与えます。老人は、地獄で食物と引き換えに手回しの碾き臼を手に入れるように助言します。そして、臼の使い方を教えます。

臼を手に入れた弟は、クリスマスの食卓に必要なものを臼から取り出し、宴を開きます。それを見た兄は臼に興味を持ち、弟から臼を買い取ります。しかし、兄は臼の正しい使い方を知らなかったため、ニシンとブイヨンを際限なく碾き出してしまい、家中に溢れかえってしまいます。困った兄は、多額の金を払い、弟に臼を引き取ってもらいます。

その後、船長が臼を買い取り、海上で塩を碾き出させます。しかし、臼は止まることなく塩を碾き出し続け、ついには船を沈めてしまいます。それでも臼は海の底で塩を碾き出し続け、そのために海は塩辛くなった、という結末を迎えます。

民話の背景と類話

この民話は、中世の北欧における塩の入手難と、塩を運ぶ船が沈没することが多かったという背景が影響していると考えられています。山室静は、この事実が『エッダ』での臼の話を発展させ、「潮吹臼」の話になったと考察しています。また、類似の物語は古くは「ヨハネ黙示録」にも見られます。

この物語は、アールネ＝トンプソンの『昔話の型』でAT565「魔法の臼」に分類されます。同様のモチーフを持つ物語は、日本やギリシアなど世界各地に存在します。日本の類話では、柳田國男が収集した「海の水はなぜ鹹い」という物語があり、小人から宝の石臼を手に入れるエピソードが描かれています。ギリシアの類話では、悪魔との交渉によって魔法の臼を手に入れる兄弟の話があり、こちらも最終的には船が沈没する結末を迎えます。

民話の意味

「海の底の臼」は、魔法の臼という魅力的なアイテムを通じて、人間の欲望の深さと、それを制御することの難しさを描いています。富を得ること自体は悪いことではありませんが、それに溺れてしまうと、自滅を招く可能性があることを示唆しています。また、知識の重要性も示唆しており、臼の正しい使い方を知らない者が手に入れると、災いをもたらすという点が強調されています。

この物語は、子供たちに夢と教訓を与えるだけでなく、大人たちにも改めて欲望と知識のバランスについて考えさせる、普遍的なテーマを持った民話と言えるでしょう。

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