海上の森

海上の森：愛知万博と自然保護運動が交差した里山

瀬戸市を中心とした約600ヘクタールの里山と森林、「海上の森」は、2005年愛知万博の開催候補地として世界的な注目を集めました。万博構想発表後、森の開発計画に対し、市民による自然保護運動が活発化。オオタカの営巣確認を契機に、大規模な反対運動へと発展し、最終的に森の大部分が保全されるという、日本における自然保護運動の歴史に大きな足跡を残した場所です。

豊かな自然と歴史

海上の森は、庄内川水系の支流である海上川上流域に位置し、大小200以上の湿地が存在する豊かな自然環境が特徴です。シデコブシなどの希少植物や、オオタカをはじめとする様々な野鳥が生息しており、古くから地域住民に親しまれてきた里山でもあります。周辺には古墳群が存在し、武田信玄の墓伝説など、歴史的な背景も持ち合わせています。明治時代には瀬戸焼の原料採取や燃料採取のために森林が大きく減少しましたが、戦後、植林などによる森林回復が進められてきました。

愛知万博と自然保護運動

1990年に愛知万博の会場候補地として選定された海上の森は、当初大規模な開発が計画されました。しかし、希少な動植物への影響を懸念した市民団体や自然保護団体による反対運動が激化。この運動は、国際博覧会事務局(BIE)をも巻き込み、国際的な規模に発展しました。BIEは自然破壊を伴う開発型の万博開催を認めないとの声明を発表。結果、主会場は愛知青少年公園に変更され、海上の森は小規模な瀬戸会場として、自然そのものを展示物とする方向へと計画が変更されました。この経緯は、国際博覧会のあり方にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。

万博関連施設と海上の森の保全

愛知万博閉幕後、瀬戸会場跡地の一部には「あいち海上の森センター」（愛称：ムーアカデミー）が開設されました。これは、海上の森全体の管理施設と自然体感・学習施設を兼ね備えています。万博時にパビリオンに住み着いたムササビを愛称に採用するなど、万博の理念を継承する姿勢が見られます。また、瀬戸万博記念公園（愛・パーク）も整備され、市民の憩いの場となっています。海上の森の保全は「あいち海上の森条例」に基づき、県と市民団体が連携して進められており、10年ごとに改訂される保全活用計画に基づき、具体的な保全活動が実施されています。

海上の森の生態系

海上の森は、地質の違いによって植生が大きく異なるエリアが混在しています。北西部の砂礫層にはアカマツやコシダ、南東部の花崗岩地質にはコナラ、アベマキなどの落葉広葉樹林やスギ、ヒノキの人工林が広がっています。120箇所以上存在する小さな湿地は、シデコブシや様々な水生生物の生育環境として重要です。特に、東海地方固有種のシデコブシは絶滅危惧種に指定されており、その保全に向けた取り組みが続けられています。

遊歩道と自然体験

海上の森には整備された遊歩道が整備されており、ハイキングやバードウォッチングなど、様々な自然体験を楽しむことができます。「瀬戸・海上の森と窯垣の小みち」は「美しい日本の歩きたくなるみち500選」にも選定されています。また、「あいち海上の森大学」では、海上の森を拠点とした自然環境学習プログラムが提供されています。

周辺環境と開発問題

海上の森周辺では、愛知万博以降も宅地開発や道路整備が進められています。その一方で、開発による環境への影響を懸念する声も上がっており、特に2013年に発生した太陽光発電施設建設問題はその象徴と言えるでしょう。この問題では、瀬戸市が土地利用調整条例に基づき開発中止を勧告したものの、事業者は開発を強行。その後、市民からの通報により、市による立ち入り調査が行われる事態となりました。

アクセス

あいち海上の森センターや瀬戸万博記念公園へは、愛知環状鉄道や瀬戸市コミュニティバスを利用することができます。

まとめ

海上の森は、自然と人間の関わり、そして自然保護の重要性を改めて考えるための貴重な場所です。愛知万博という歴史的イベントと、それを取り巻く自然保護運動を理解するためにも、ぜひ訪れて、その豊かな自然と歴史に触れてみてください。

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