海汀倉の戦い

文禄元年（1592年）7月、文禄の役における日本軍の咸鏡道侵攻において、加藤清正の部隊が海汀倉（現在の城津付近）で朝鮮軍と交戦し、これを破った戦いです。

戦いの背景

文禄元年（1592年）に始まった文禄の役で、短期間のうちに李氏朝鮮の首都である漢城を占領した日本軍は、朝鮮全土を分担して平定する方針を定めました。その中で、北方の咸鏡道方面は、加藤清正、鍋島直茂、相良頼房らが率いる第二部隊が担当することになりました。

第二部隊は漢城を発ち、北へ向かいました。臨津江の戦いの後、6月初旬には進路を東寄りに変え、地元の住民を案内役として使いながら谷山を経て老里峴の難所を越えていきました。咸鏡南道の兵使であった李渾は、兵を率いて日本軍を迎え撃とうとしましたが、先頭部隊を目にするや戦わずして潰走してしまいました。

加藤清正は安辺にしばらく留まった後、永興に進みました。ここで、朝鮮人が立てた貼り紙に二人の王子（臨海君と順和君）が北へ向かったことが記されているのを見つけます。鍋島直茂は永興および咸興付近に留まり守備を担当しました。加藤清正はさらに北進を続け、北青を経て、7月15日または16日頃には端川に入りました。ここで家臣の九鬼広隆に付近の守備と銀鉱の試掘を命じ、自身はさらに北へ進みました。

この頃、朝鮮の二王子、臨海君と順和君は、兵士を募集するために咸鏡道へ来ていましたが、日本軍が迫ってきたため摩天嶺を越えて会寧へと逃れていました。

戦闘の経過

咸鏡北道の兵使であった韓克諴は、日本軍の北上を聞きつけ、これを阻止するため北境六鎮（慶興、慶源、会寧、鍾城、鏡城、富寧）から兵力を集結させ、鏡城を出発して南下しました。元来勇敢さで知られる咸鏡北道の兵士たちは、進軍して摩天嶺の険しい地形を拠点としようとしましたが、加藤清正の部隊はすでに摩天嶺を越えて進撃していました。

両軍は、文禄元年（1592年）7月17日（または旧暦18日）未明、海汀倉（現在の城津付近）で偶然にも遭遇しました。朝鮮軍が騎馬隊をもって日本軍に迫ると、日本軍は鉄砲による一斉射撃で応じました。これにより、富寧府使の元喜を含む300人以上の朝鮮兵が戦死し、朝鮮軍は敗走しました。

指揮官の韓克諴は敗れた部隊を率いて近くの山上に退き、夜明けを待って再び攻撃を仕掛けようとしました。しかし、日本軍は夜半密かに朝鮮軍の陣営に接近し、暁の霧を利用して鬨の声を上げながら奇襲攻撃を敢行しました。韓克諴の部隊は大混乱に陥り、多くの死傷者を出しながら北へ逃れ、鏡城に帰還しました。

戦いの影響

海汀倉での勝利は、咸鏡道における戦況を大きく変える転機となりました。この戦いの後、現地の朝鮮人たちは李氏朝鮮王朝に反旗を翻す者が続出し、日本軍に帰順する動きが雪崩を打つように広がりました。

加藤清正の部隊が吉州、明川を経て鏡城に進軍した時、韓克諴はすでに逃走しており、目立った抵抗はありませんでした。日本軍はさらに富寧を通過し、7月22日には古豊山に到着しました。翌23日（旧暦24日）、まさに会寧を攻撃するための態勢を整えようとしていた矢先、会寧府使の鞠景仁が、かねてから咸鏡道に滞在していた二王子（臨海君と順和君）らを捕らえて差し出し、降伏を申し出てきました。

加藤清正はこの降伏を受け入れ、わずかな供回りのみで会寧城に入り、二王子やその従臣、さらには会寧府使、穏城府使、鏡城判官といった現地の官僚ら20名あまりを捕虜としました。しかし、加藤清正は彼らの縄を解き、丁重に遇しました。この対応の評判は広がり、これを聞いた各地の朝鮮人たちは、自らの上官を捕縛して日本軍に引き渡すという事態が頻発しました。例えば、咸鏡道の元監司であった柳永立は現地の朝鮮人の手引きで生け捕りにされ、咸鏡南道兵使の李渾もまた、逃亡先の甲山で現地の朝鮮人によって殺害され、その首が日本軍のもとに届けられました。韓克諴も最終的に捕縛され、こうして咸鏡道全域が日本軍の支配下に入ったのです。

咸鏡道は、朝鮮王朝と女真族が隣接する境界地域であり、古くから紛争が絶えない地でした。朝鮮人は女真族を恐れていましたが、加藤清正は咸鏡道の平定後、さらに女真族を討伐し、その威力を示そうと計画しました。この討伐には、日本軍に服属した多くの朝鮮人が志願しました。そして8月、会寧の朝鮮人兵士3000人を先鋒とし、日本人兵士8000人を合わせた総勢1万1千の部隊をもって、ついに豆満江を渡り、満州の兀良哈（オランカイ）地域へと侵攻することになりました。

参考文献：
参謀本部編『日本戦史・朝鮮役（本編・附記）』偕行社、大正13年（1924年） 177-178頁

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