海洋の自由

海洋の自由（かいようのじゆう）

海洋の自由とは、国際法における概念であり、公海がいかなる国家の支配下にもないことを指します。この原則は、全ての国家が公海を自由に利用できることを保障するものであり、時に公海の自由とも称されます。その起源は、1609年にフーゴー・グローティウスが著した『自由海論』に遡ることができ、19世紀以降は国際法の基本原則として広く認知されてきました。

沿革

グローティウスの『自由海論』は、彼の母国オランダを守るために、スペインやポルトガルの海洋権益の主張に反発する形で書かれました。グローティウスは、海洋は自然法に基づき全ての人に開かれるべきものであり、どの国にもその領有は許されないと主張しました。この理論は、海の領有に関する重要な論争を引き起こし、17世紀には「海洋論争」と呼ばれる一連の学術的討論が生じました。

18世紀になると、海の領有を「狭い領海」と「広い公海」という二つの区域に分ける考え方が定着し、これが一般的な国際法として確立されていきました。その後、19世紀に入ると、各国は条約による合意を持つことに消極的であり、慣習法が長い間主流となりました。

20世紀に入ると、国際連盟のもとで慣習国際法の法典化が試みられましたが、領海の幅を巡る意見の相違により、法典化は成功に至りませんでした。第二次世界大戦後は、国際連合の下で法典化作業が続けられましたが、領海幅についての合意には至らなかったものの、1958年には公海条約が採択され、公海の自由に関する規定が盛り込まれました。1982年に採択された国連海洋法条約では、200海里まで排他的経済水域が設定され、これにより海洋の自由が存在する公海の範囲は狭められることとなりました。

自由の内容

公海は領海や内水、排他的経済水域を除いた海の全ての部分を指します。海洋の自由は、この公海において認められ、主に「帰属からの自由」と「使用の自由」の2つの側面が存在します。これらの原則は、現在の国連海洋法条約に明記されています。

帰属からの自由

「帰属からの自由」とは、いかなる国家も公海に対して主権的な支配を行うことを禁じる原則です。この側面は、現代の慣習国際法として認められ、国連海洋法条約の第86条および第89条にも記載されています。この原理により、国家は公海に対して属地的な管理を行うことはできません。

使用の自由

「使用の自由」とは、航行、上空飛行、海底電線敷設、漁業、海洋科学調査などを含み、これらは国際法に基づいて各国が自由に行える行為です。しかし、漁業に関しては、さまざまな国際的な協定に基づいて制限を受け、その自由は大きく制限されています。公海を利用する際は、他国の権利を侵害しないように「妥当な考慮」を払う必要があり、この考慮が欠ける場合には国際違法として問われることになります。

航行の自由作戦

アメリカ合衆国は、特定の国が領海や排他的経済水域を過剰に主張していると認識した際、「航行の自由」作戦を実施しています。これは、予告なしに対象海域を航行することで、自国の権利を強調する目的があります。この行動は同盟国にも影響し、日本や英仏海軍も似たような航行を行っています。この航行行動は、特に南シナ海など地政学的に緊張の高い海域で頻繁に見られ、アメリカの軍艦が航行すると、周辺国からの強い反発を招くことが多いです。

アメリカやその同盟国による航行の自由作戦は、国際法の尊重を訴える一方で、各国間の緊張の要因ともなっています。これらの作戦は、国際的な公海利用における重要な課題であり、国家間の利害関係や法の適用のあり方を常に問い直す必要があります。国際的な航行がどのように進展し、法がどう適用されるかは、今後の外交や安全保障において重要な要素となるでしょう。

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