海賊になった貴族

『海賊になった貴族』（かいぞくになったきぞく、原題：Our Flag Means Death）は、デヴィット・ジェンキンスが手掛けた歴史ロマンティック・コメディのテレビドラマシリーズです。18世紀初頭、海賊の黄金時代を背景に、裕福な地主から一転して海賊となった実在の人物、スティード・ボネットの波乱万丈な生涯を緩やかに描き出します。彼の指揮する船「リベンジ号」の個性的な乗組員たちと共に、伝説的な海賊である黒髭、本名エドワード・ティーチと出会い、海賊として生き残るために奔走する姿が描かれます。

あらすじ

物語は1717年、バルバドスで平穏な地主生活を送っていたスティード・ボネットが、突然、海賊になることを決意するところから始まります。しかし、海賊としての適性は皆無。私財を投じて手に入れた船「リベンジ号」と寄せ集めの乗組員を率いて大海原に出ますが、その指揮能力の欠如から、彼らは海軍や他の凶暴な海賊たちの脅威に常にさらされ、悪戦苦闘を強いられます。そんな彼らの前に現れたのが、悪名高き海賊、黒髭ことエドワード・ティーチでした。一見、相容れないように見えるボネットとティーチですが、様々な出来事を経て、次第に互いに惹かれ合い、予想外の恋愛関係へと発展していきます。

製作背景

シリーズの原案と製作総指揮（ショーランナー）を務めるデヴィット・ジェンキンスは、妻からスティード・ボネットの存在を知り、ウィキペディアの記事を読んだことから企画を着想しました。特に、ボネットが家族を捨てた理由や、黒髭が彼を船に迎え入れた背景など、その生涯の謎めいた部分に強い関心を抱き、それを物語で探求しようとしました。企画当初から、ボネットと黒髭の関係性、特に二人の間に芽生えるロマンスを物語の核に据えることを構想していました。

ジェンキンスは共通のマネージャーを介してタイカ・ワイティティにボネットの話を持ちかけ、製作への協力を打診しました。ワイティティは、ジェンキンスによる海賊というテーマへのユニークな視点と、ボネットとティーチのロマンスを中心とする構想に強く惹かれ、製作総指揮として参加することを決めました。さらに、彼はシリーズの第1話の監督も兼任しています。ギャレット・バッシュやダン・ハルステッドも製作総指揮として名を連ねています。HBO Maxは2020年9月にシリーズの発注を正式に決定しました。

キャスティング

主人公スティード・ボネット役には、コメディ俳優として知られるリス・ダービーがキャスティングされました。ダービーはオーディションで一度は落選したものの、脚本の完成が近づいた段階で再び候補に浮上し、2021年1月に正式に決定しました。ジェンキンスは、一般的にはあまり好意的に見られないスティード・ボネットという人物を、ダービーが見事に人間味あふれる愛すべきキャラクターとして演じきったことを称賛しています。ダービー自身も、本作のボネット役を、これまで主に演じてきたコミカルな脇役からステップアップし、よりドラマチックな主役級の演技に挑戦する機会と捉えていました。

一方、伝説的な海賊・黒髭役には、製作総指揮も兼務するタイカ・ワイティティが配役されました。ジェンキンスは企画段階からワイティティを念頭に黒髭のキャラクターを書いており、2021年4月に彼の出演が正式に発表されました。ワイティティは、伝説的な存在でありながらも複雑で詩的な一面を持つ黒髭という役柄に、自身の個性を吹き込んでいます。この他、クリスチャン・ナイアン、ネイサン・フォード、サムソン・ケイオ、ロリー・キニア、コン・オニール、ヴィコ・オルティス、ユエン・ブレムナー、デヴィット・フェイン、ジョエル・フライ、ガズ・カーン、マシュー・マー、レスリー・ジョーンズ、ナット・ファクソン、フレッド・アーミセン、サンバ・シュッテなど、多数の実力派俳優たちが個性豊かなキャラクターを演じています。

撮影と音楽

シリーズの撮影は2021年6月14日から9月28日にかけて行われました。「リベンジ号」でのシーンは、サウンドステージ内に構築されたセットで撮影されました。シリーズの音楽は、数々の映画やテレビ作品を手掛けるマーク・マザーズボーが担当し、そのオリジナル・サウンドトラックは2022年5月6日にリリースされています。

公開と評価

『海賊になった貴族』は、アメリカではHBO Maxにて2022年3月3日に初回エピソードが公開され、最終話は同年3月24日に配信されました。日本語版はU-NEXTで、2022年6月24日から視聴可能となりました。

批評家からの評価は概ね好意的です。レビュー集計サイト「Rotten Tomatoes」では91%の支持を得ており、「困惑した海賊団員たちは十分に魅力的であり、心休まる作品を求める視聴者は実りある戦利品を見つけることができるだろう」と評されています。また、「Metacritic」では70点の加重平均スコアを獲得し、「全般的に好意的な評価」と位置付けられました。特に、明確かつ肯定的なLGBTQ+の描写（ノン・バイナリーのキャラクターを含む）が称賛されています。主人公であるボネットとティーチのロマンスが、物語の終盤で曖昧なまま終わらせず、関係性をはっきりと描いたことで、いわゆるクィアベイティング（性的少数者を示唆するだけで実際には描かない手法）を回避した点も高く評価されました。これらの要素に加え、そのユニークな作風と魅力的なキャラクターが視聴者の心をつかみ、アメリカでは一時期、人気シリーズ『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett|ボバ・フェット_The Book of Boba Fett』を抜いて、ストリーミングサービス上で最も視聴されているシリーズの一つとなりました。

続編

その好評を受けて、2022年6月1日には第2シーズンの製作が正式に発表されました。第2シーズンの撮影は2022年10月より、ニュージーランドで行われることになりました。

ユニークな歴史設定、人間味あふれるコメディ、そして心温まるロマンスが融合した『海賊になった貴族』は、従来の海賊物語とは一線を画す作品として、広く受け入れられています。

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