消えるヒッチハイカー

消えるヒッチハイカー：都市伝説の原点

「消えるヒッチハイカー」は、アメリカを中心に語り継がれる都市伝説、または怪談の一種です。親切な運転手が道端でヒッチハイクをしている人を見つけ、車に乗せて目的地まで送ろうとしますが、その乗客は突然姿を消してしまうのです。運転手が不可解に思い、乗客が告げた住所を訪ねると、そこに住む人々から、その乗客は数年前に亡くなった人物だと知らされます。

この物語は、1930年代から口承で広まり、自動車が普及した時代背景と相まって、多くの人々に語り継がれてきました。物語の舞台、ヒッチハイクをする理由、行き先など、様々なバリエーションが存在し、中には、ヒッチハイカーの命日や誕生日、プロムに向かう途中の若い女性との出会いなど、ドラマチックな要素が加えられることもあります。

シカゴのアーチャー・アヴェニューでは、「復活メリー」と呼ばれる若い女性の幽霊がヒッチハイクをするという話が有名です。彼女を乗せた運転手たちは、いつの間にか彼女が消えていたと語ります。この場所は心霊スポットとして知られ、「シカゴ超自然観光」という観光バスツアーでも紹介されています。

この都市伝説は、アメリカの大衆文化にも影響を与え、ディッキー・リーの『奇妙なできごとが起こる』や『トワイライト・ゾーン』など、歌やテレビドラマの題材にもなりました。1981年には、民俗学者のジャン・ハロルド・ブルンヴァンが『消えるヒッチハイカー』を出版し、「都市伝説」という言葉を広め、民俗研究に大きな影響を与えました。

世界に広がる類似の話

「消えるヒッチハイカー」のような話は、アメリカ国外にも存在します。カナダ、ヨーロッパ、韓国などでも類似の話が語られており、アメリカに伝わったのはヨーロッパからの移民によるものだという説もあります。ドイツでは、19世紀から馬車に乗せた客が消えるという話が存在していました。また、新約聖書の使徒言行録には、福音宣教者のフィリポが二輪車から姿を消すという記述があり、これも類話として捉えることができます。メキシコやハワイにも、精霊や女神が車に乗ってくるという話があり、ハワイでは女性のヒッチハイカーを必ず乗せるという迷信があるほどです。

日本の類話

日本では、ヒッチハイクではなくタクシーを舞台にした怪談として語られることが多いです。「青山の墓地まで」という落語の演目にもなっています。タクシーにマスコット人形が飾られているのは、幽霊の乗車を防ぐためだという説もあります。青山霊園は、幽霊が出没する場所として、多くのタクシー怪談の舞台となっています。自動車が普及する以前は人力車、さらに遡ると駕籠を舞台にした怪談が存在し、江戸時代の怪談集『諸国百物語』にも同様の話が見られます。日本の古い怪談が、ヒッチハイク文化のあるアメリカに伝わり、「消えるヒッチハイカー」として定着したという説も存在します。

心理学者の指摘によれば、自動車運転中の単調な風景が運転手の注意力を低下させ、催眠状態に近い状態を引き起こし、幻覚を見る現象「ハイウェイ・ヒプノーシス」も、この種の怪談の原因の一つとして考えられます。

「消えるヒッチハイカー」は、時代や場所を超えて語り継がれる、人々の心に潜む不安や好奇心を刺激する都市伝説なのです。

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