深川 (花街)

深川花街の歴史

深川花街は、現在の東京都江東区深川一帯に存在した、歴史ある花街の総称です。その起源は江戸時代初期に遡り、1655年（明暦元年）、富岡八幡宮の門前に開業した料理茶屋が始まりとされています。1627年（寛永4年）に創建された富岡八幡宮周辺の土地が1652年（承応元年）に開発され、その3年後に料理茶屋が許可されたことが、深川が江戸屈指の岡場所（非公認の遊里）として発展するきっかけとなりました。

深川の岡場所は、富岡八幡宮周辺だけでなく、仲町、新地、土橋、櫓下、裾継、石場、佃町の7ヶ所に広がりました。特に仲町は大変な繁栄を見せ、多くの人々で賑わいました。また、元禄時代には、芳町から逃れてきた女芸者・菊弥が深川に移り住み、唄の師匠として茶屋を開いたことが、深川芸者の誕生につながりました。

辰巳芸者の活躍

深川の芸者は「羽織芸者」や「辰巳芸者」と呼ばれ、その粋でいなせな姿と意気地が評判でした。公許遊郭である吉原では、娼妓が上位、廓芸妓が次位とされていましたが、深川では芸妓が上位とされ、娼妓は次位という違いがありました。しかし、深川では売春を行う芸妓も多く、「二枚看板」と称されることもありました。

深川の花街は、隣接する木場の材木商を主な顧客として、大いに賑わいました。木場の繁栄とともに、深川の花街も活況を呈し、多くの人々が訪れる場所となりました。

天保の改革と再興

しかし、幕府は深川をはじめとする江戸市中の岡場所を容認せず、1842年（天保13年）、老中に就任した水野忠邦による天保の改革によって、深川の岡場所は潰されることになります。娼妓は吉原へ送られ、芸妓は日本橋や柳橋へ逃れて、そこで新たな花街を形成しました。

その後、1860年（安政7年）に、深川の料理茶屋が再興を願い出て許可され、深川は再び花街としての活気を取り戻します。また、この時期には、火災で焼け出された吉原の仮宅としても利用され、さらに賑わいを見せました。

明治以降の深川花街

明治時代に入ると、深川の花街は柳橋や新橋の花街に押され、一時的に衰退しました。最盛期には32人まで芸妓の数が減少しましたが、1878年（明治12年）に深川不動堂が建立されると、再び活気を取り戻しました。さらに、1886年には米市場が開設され、米穀関係者の利用が増え、1888年（明治21年）には根津から洲崎遊廓が移転してくるなど、深川は再び賑やかな花街となりました。

1907年には組合が組織され、40名の芸妓が在籍していました。昭和初期には、置屋54軒、芸妓149名を数えるほどでした。しかし、1937年（昭和12年）に日中戦争が勃発すると、戦時色が強まり、深川芸妓は洲崎の娼妓と共に国防婦人会を結成し、軍隊慰問などを行いましたが、1944年（昭和19年）に花街の営業は停止されました。

戦後の花街と終焉

1945年（昭和20年）3月10日の東京大空襲で深川一帯は焼失し、花街も大きな被害を受けました。しかし、1947年頃から復興に取り組み、1950年（昭和25年）には、料亭・待合41軒、芸妓130名、置屋50軒で再建されました。戦後の復興によって木材業の需要が伸び、花街は再び賑わいを見せましたが、1958年（昭和33年）の売春防止法施行により、洲崎遊廓は廃絶されました。

高度経済成長期に入ると、娯楽の多様化によりキャバレーやクラブに客を奪われ、得意先であった木場が1970年（昭和45年）に新木場に移転したことが、深川の花街に大きな打撃を与えました。昭和40年代以降、料亭や芸妓の数は減少し続け、1982年（昭和57年）には三業組合事務所が閉鎖されました。バブル期には地上げにより、敷地がビルや飲食店に変わり、1990年（平成2年）には、門前仲町に料亭5軒、置屋20軒、芸妓20名が残るのみとなり、芸妓が女将を兼ねる形で細々と営業を続けましたが、平成初期に深川の花街は消滅しました。

復活、そして令和の時代へ

しかし、2015年から深川の花街は復活の動きを見せています。現在、置屋は1軒のみですが、外国人初の芸者であるオーストラリア人・紗幸を中心に活動しており、紗幸と千紗の2名の芸妓が在籍しています。かつてのような賑わいを取り戻すことができるか、今後の活動に注目が集まっています。

深川花街は、江戸時代から昭和にかけて、多くの人々に愛され、歴史と文化を育んできた場所です。その歴史は、日本の社会、経済、文化の変遷を反映しており、私たちが過去を振り返り、未来を考える上で重要な手がかりとなります。

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