深心院関白記

深心院関白記（じんしんいんかんぱくき）

『深心院関白記』は、鎌倉時代の公卿、近衛基平によって記された日記です。その記述は、基平が10歳であった建長7年（1255年）から、関白在任中の文永5年（1268年）に赤痢で亡くなるまでの期間に及びます。ただし、日記には所々欠落が見られます。別名として「深心院基平公記」とも呼ばれています。

現在、自筆の原本が6巻、陽明文庫に所蔵されており、その他にも写本や伝本が複数存在しています。

深心院の号について

「深心院」は基平の号ですが、その由来は明確にはわかっていません。今日では基平の号としてほぼ定着していますが、この呼称が早くから使われていたわけではありません。基平を深心院と呼ぶ史料の初見は、1312年の『玉葉和歌集』に見られます。

歴代の摂関家は、ゆかりのある寺院や別荘の地名を号とすることが多くありました。基平の父である近衛兼経は、晩年を過ごした別邸から「岡屋殿」と呼ばれ、祖父の近衛家実もまた、晩年を過ごした猪隈の別邸から「猪隈殿」と呼ばれました。

しかし、基平は関白在任中に若くして亡くなったため、晩年を過ごした特定の別邸はありません。京都・嵯峨の西谷に別邸があったようですが、正確な場所は不明です。また、京都府長岡京市栗生にある光明寺の境内に「深心院」と呼ばれる場所がありますが、これが基平の号の由来となっているかは定かではありません。

内容の詳細

日記の記述は、基平が10歳で権中納言になった建長7年に始まり、文永5年3月に赤痢で没する場面で終わります。現存する原本6巻のうち、4巻以降の3巻は筆跡が一貫しており、途中に白紙を継ぎ足して補填していることから、ほぼ基平の自筆と断定できます。一方、1巻から3巻は筆跡に一貫性が見られず、写本の可能性も指摘されています。しかし、基平がまだ若く、書風が確立されていなかったためとも考えられます。特に1巻は、一部の固有名詞を除き、全体的な記述が祖父・家実の日記『猪隈関白記』と酷似しており、基平が祖父の日記を模倣することで、日記の書き方を学んでいたと分析されています。

日記の内容は、基平の公私にわたる行事が中心であり、蒙古（モンゴル帝国）との折衝に関する記述も含まれています。そのため、『深心院関白記』は、元寇（げんこう）を研究・検証する上で非常に貴重な史料となっています。

参考文献

国史大辞典
平凡社「日本史大辞典」
* 大日本古記録「深心院関白記」

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