蒙古

蒙古（もうこ）

「蒙古」という言葉は、モンゴル高原に居住する遊牧民や、彼らが居住する地域を指す中国語の音写の一種です。鎌倉時代には「もうこ」の他に「むくり」や「むこ」とも呼ばれていました。

地域名称としての「蒙古」

地域名称としては、おおむねモンゴル人の居住するシベリアと万里の長城の間に位置する「モンゴル高原」を指します。清代には外蒙古（現モンゴル国）と内蒙古に大別されました。中華民国の一時期には、ジェプツンタンパ政権の自治モンゴルやモンゴル人民共和国の実効支配部分（旧・外蒙古）のみを指す地域名称としても使用されました。現在、中華人民共和国では「内蒙古」が自治区名として使用されています。

蔑称としての側面

「蒙古」という言葉には「おろかで古い」という悪い意味合いが含まれるとして、漢民族による蔑称であると批判されることがあります。日本では、モンゴル人と日本人の合同署名による広告活動で、使用をやめるように運動が起きています。しかし、「蒙古襲来」や「蒙古斑」など、定着している表現も存在します。

歴史

「蒙古」という語彙の出現と用例

モンゴルが歴史の舞台に姿を現すのは7世紀、室韋の一派としてです。当時は「萌古」「蒙兀」「蒙瓦」などとも音写されていました。東のタタル部とは同祖の部族でした。1271年に金を滅ぼすと、国号を漢民族による蔑称である「蒙古」から「元（大元ウルス）」へと変更しました。元の北走後、北元のチンギス統が途絶えると、モンゴルは「韃靼」と呼ばれるようになり、西にはオイラトが分裂しました。その後、清朝の乾隆期にかけて、旧韃靼と旧オイラトのほぼ全部族が清朝の支配下に入り、再び「蒙古」の名で総称されるようになりました。

清朝期における「蒙古」への行政区分と「蒙古人」の分布

清朝はモンゴル人を以下の三形態によって組織しました。

蒙古八旗：早期に清朝に服属し、清朝の支配構造の最上位に位置する旗人に編成された人々。首都北京の内城や主要な地方都市の駐防八旗の駐屯地に配置されました。
内属蒙古：チンギス・ハンやアルタン・ハンの直系子孫からなる世襲の部族長が廃止され、清朝皇帝の直轄下に置かれたチャハル部や帰化城トメト部、オイラトの諸部族。
外藩蒙古：ゴビ砂漠の南北に分布する「漠北蒙古（外蒙古）」、「漠南蒙古（内蒙古）」、現在の「新疆」・「青海」などに居住し、清朝より盟旗制度によって編成された全てのモンゴル貴族とその領民。

中華民国における「蒙古」

辛亥革命後、全モンゴルの独立を目指すジェプツンタンパ政権との軍事衝突を経て、北モンゴル（旧・外蒙古）をジェプツンタンパ政権が、南モンゴル（内蒙古）を民国側が掌握するという形で終息しました。キャフタ協定により、南モンゴルは中国政府の統治下に、北モンゴルはジェプツンタンパ政権のもと、中国の宗主権下の自治地域と位置づけられました。

北京政府時期（1912年 - 1928年）

中華民国の実効支配が及んだ南モンゴル（内蒙古）では、清朝期以来の盟旗制が継続されました。しかし、漢人が多数入植した地域では州県制も行われ、将来の省制施行への前段階として、いくつかの地域に分割されました。これらの地域は、黒竜江省、吉林省に併合されるか、特別区として扱われました。旧外蒙古の地域に対しては、清朝時代の官職名をほぼそのまま受け継いだポストが維持されました。

国民政府時期（1927年 - 1949年）

ソビエト連邦の支援を受けた中国国民党は、「中国国内の各民族の自決権を承認」しており、国民政府ではモンゴル人民共和国領の統治を職掌とするような名目的・形式的ポストは設置されませんでした。国民政府の統治下に入った南モンゴルでは、特別区に省制が施行されました。南モンゴルのモンゴル人は、「内地化」に抵抗し、自治運動を展開しました。1936年には、南モンゴル人が国民政府の支配から離脱し、蒙古軍司令部を樹立、日中戦争勃発後は日本の支援を受け、蒙古自治邦を成立させました。

中華民国における「蒙古」と「蒙古地方」の用法

中華民国の行政区画では、内蒙古をモンゴルから切り離して「内地」に組み込んだため、中華民国期には「蒙古」が旧・外蒙古の区域だけを指す地域名称として使用されるようになりました。中国の統治下に留まった「内蒙古」の各地方は、国民政府時期に「蒙古地方」と呼ばれました。

中華人民共和国における「蒙古」の用法

中国では現在、行政区分としての内蒙古自治区、民族名としての蒙古族、言語としての蒙古語などに「蒙古」が用いられています。モンゴル国は公式には「蒙古国」と表記されますが、一般には「外蒙古」の呼称が用いられることが多いです。

脚注

元寇を指す「蒙古襲来」や蒙古斑など、定着している表現もある。
『中華民国時期軍政職官誌』（上下、郭卿友主編、蘭州・甘粛民族出版社1990、ISBN 7-226-00582-4）
『民国職官年表』（劉壽林・萬仁元・王玉文・孔慶泰編、北京・中華書局1995、ISBN 7-101-01320-1）

関連項目

西蔵：チベットの西南部を指す中国語の呼称、地域概念。現在の西蔵自治区（チベット自治区）の領域とほぼ一致。
[[西蔵地方]]：中華民国の歴代政権および中華人民共和国が、「西蔵」と共に「中国の一地方」の呼称として使用。特に「チベット独立」の主張に対して、「西蔵が中国の一部分」であることを強調するために使用。
蒙古地方：清朝期のモンゴルの総称。中華民国期、内蒙古各地が隣接する諸省に組み込まれ、「内地」に組み込まれた一方で、旧態依然としている旧・外蒙古を指した行政区域名。
新疆：乾隆帝のジュンガル平定により清の領土となった東トルキスタン。
* 新疆省：ヤクブ・ベクの反乱の結果、1884年以降省制が敷かれた新疆。

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