清慎公記

清慎公記（せいしんこうき）

清慎公記は、平安時代中期の関白、藤原実頼（ふじわらのさねより）が記した日記です。「清慎公」は実頼の諡号であり、他にも、その字の偏から「水心記（すいしんき）」、邸宅名から「小野宮記（おののみやき）」または「小野記（おのき）」とも呼ばれました。しかし、これらは実頼の死後に使われた名称で、実頼自身は単に「私記」と称していました。これは当時の貴族が日記に対して用いた一般的な名称です。

実頼は儀礼に関する深い研究で知られ、彼を祖とする小野宮流の根本資料となる宮中の儀礼や慣習に関する記述が多く含まれていたとされています。しかし、実頼の孫である藤原公任（ふじわらのきんとう）が、清慎公記の内容を分野別にまとめた「部類」を作成する際、原本を切り貼りしてしまったため、全巻が紙屑同然になってしまうという事件がありました。この行為に対して、所有者であり実頼の従兄弟である藤原実資（ふじわらのさねすけ）は激怒したと伝えられています。

さらに、公任が作成した「部類」の一部も、公任の娘婿である藤原教通（ふじわらののりみち）の家で火災に遭い焼失してしまいました。その後、残りとされる6巻は、藤原宗忠（ふじわらのむねただ）が小野宮家の藤原顕仲（ふじわらのあきなか）から材木と引き換えに譲り受けました。しかし、宗忠は書に「私記」とだけ記されていたため、それが清慎公記であることに気づきませんでした。その結果、譲ったとする顕仲と、事実無根とする宗忠の間で紛争が起こったとされています。この6巻も後に散逸してしまい、今日には伝わっていません。

清慎公記は、延長2年（924年）から実頼が死去した天禄元年（970年）まで存在したとされています。しかし、上述のような経緯から、現在伝わっているのは、実頼の養子である実資の日記『小右記（しょうゆうき）』や、娘婿である源高明（みなもとのたかあきら）の『西宮記（さいきゅうき）』などに引用された逸文のみです。

また、公任の著書である『北山抄（ほくざんしょう）』には、「私記」と注記された引用部分があり、これが清慎公記からの引用であると考えられています。このように、清慎公記は原本こそ失われてしまいましたが、後世の日記や記録にその一部が引用される形で、その内容がわずかながら伝えられています。

脚注

参考文献

倉本, 一宏『平安時代の男の日記』株式会社KADOKAWA〈角川選書〉、2024年7月31日。ISBN 978-4-04-703728-1。
木本, 好信『平安朝日記と記録の研究』みつわ、1980年9月15日。doi:10.11501/12238462。(要登録)
桃裕行「『北山抄』と『清慎公記』」（森克己博士古稀記念『対外関係と政治文化』所収 1974年、桃裕行『古記録の研究』上（『桃裕行著作集』4）再録 1988年）

関連項目

小野宮流
小右記（続水心記）
北山抄

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