清水登之

清水登之：激動の時代を生きた画家

清水登之(1887-1945)は、栃木県で生まれた画家です。陸軍士官学校を目指して成城学校に進学するも志望校に合格できず、1907年、単身アメリカへと渡りました。シアトルでの肉体労働を経て、1912年にはオランダ人画家の画塾に入門。その後、ニューヨークへ移り、アート・スチューデンツ・リーグで研鑽を積みました。

1921年には、アメリカ絵画彫刻展に作品を出品し招待出品され、受賞も決まりましたが、アメリカ人ではないという理由で受賞が取り消されるという不運に見舞われます。その後、1924年には家族と共にパリに移住。藤田嗣治や海老原喜之助ら多くの日本人画家と交流し、サロン・ドートンヌにも入選するなど、パリで活躍しました。

1927年に帰国後は、東京を拠点に制作活動を行い、二科展で二科賞を受賞するなど、日本画壇で高い評価を得ました。1932年には従軍画家となり、戦争を題材とした作品を数多く制作しました。これらの作品の中には、戦後のGHQによって没収されたものもあり、その中には『汪主席と中国参戦』や『工兵隊架橋作業』といった作品が含まれます。没収された作品は、1970年にアメリカ合衆国から無期限貸与という形で返還され、現在は東京国立近代美術館に所蔵されています。

1939年には陸軍美術協会にも参加するなど、戦争と深く関わった画家としての側面も持ち合わせていました。最晩年は栃木県の生家に戻り、疎開生活を送っていましたが、1945年6月には長男の戦死の知らせを受け、同年12月、終戦直後に亡くなりました。

清水登之の作品は、彼の激動の人生と密接に結びついています。アメリカでの生活、パリでの芸術活動、そして戦争体験。それらの経験が彼の作品に深く刻み込まれていることは間違いありません。彼の作品を通して、激動の時代を生きた一人の画家の足跡、そしてその時代の空気を感じ取ることができます。

清水登之の作品の特徴

清水登之の作品は、写実的な描写と、時に幻想的な表現が混在しているのが特徴です。特に戦争画においては、戦争の悲惨さをリアルに描きながらも、そこに潜む人間の強さや希望も表現しようと試みています。また、彼の作品からは、常に新しい技術や表現方法を探求しようとする姿勢が感じられます。

研究

清水登之に関する研究は、近年活発に行われています。彼の作品を通して、戦争と芸術の関係性、そして20世紀の日本美術史における彼の位置づけを明らかにしようとする試みが続けられています。

主要作品

横浜夜景
セーヌ河畔
地に憩ふ
汪主席と中国参戦
工兵隊架橋作業
十四番街の地下鉄駅

参考文献

小勝禮子、鈴木さとみ、志田康宏編『「戦後70年：もうひとつの1940年代美術―戦争から、復興・再生へ 美術家たちは何を考え、何を描いたか」展』栃木県立美術館、2015年
とちぎ蔵の街美術館編『没後70年 栃木に生きる清水登之』2016年
村上敬「清水登之《セーヌ河畔》について」『静岡県立美術館紀要 No.19』2003年3月31日
平瀬礼太「四つの架橋―清水登之の「工兵隊架橋作業」をめぐって―」『歴史評論』No.671、2006年3月号
* 酒井哲朗「美を訪ねて第52回 清水登之《十四番街の地下鉄駅》」『福島の進路』No.295、2007年3月号

これらの資料は、清水登之の人生と作品についてより深く理解する上で役立つでしょう。

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