渋谷健一

渋谷健一（しぶや けんいち）は、1905年（明治38年）2月6日に生まれ、1997年（平成9年）1月10日に91歳で死去した日本の実業家である。三重県の出身で、特に製紙業界において、十條製紙株式会社（現在の日本製紙株式会社の一部）の経営者としてその名を馳せた。社長や会長といった要職を歴任し、同社の発展に多大な貢献をした人物として知られている。

彼は学問を修めるべく中央大学に進学し、1925年（大正14年）に同大学専門部経済学科を卒業した。大学での専門的な学びを終えた渋谷は、同年中に製紙業界の主要企業の一つであった富士製紙株式会社に入社し、実業界でのキャリアの第一歩を踏み出した。その後、王子製紙での勤務を経て、1949年（昭和24年）に十條製紙へと転じた。この転籍が、彼のキャリアにおける重要な転換点となった。

十條製紙に入社後、渋谷健一はその優れた識見と実行力をもって、経営の中枢へと着実に昇り詰めていく。1952年（昭和27年）11月には取締役に就任し、経営陣の一員として重要な意思決定に関わるようになった。その後も昇進は続き、1958年（昭和33年）11月には常務、1964年（昭和39年）5月には専務と、責任あるポストを歴任した。これらの経験を通じて、彼は製紙事業に関する深い知識と、組織を統率するリーダーシップを培った。

長年の実績と経営手腕が高く評価され、1968年（昭和43年）3月には副社長に昇任。そして、翌1969年（昭和44年）5月には、ついに十條製紙株式会社の代表取締役社長に就任した。社長として約7年間、彼は激動する経済情勢の中で会社の経営を指揮し、その業績向上に尽力した。1976年（昭和51年）6月には代表取締役会長に就任し、社長職を後進に譲りつつも、経営の最高責任者として引き続き同社の舵取りに関与した。会長職も約6年間務め、1982年（昭和57年）6月には取締役相談役、さらに1984年（昭和59年）6月からは相談役として、長年にわたり培った豊富な経験と見識を活かし、後進の指導や経営への助言を行った。

経営者としての顕著な功績に対し、渋谷健一は国からの栄典も受けた。1971年（昭和46年）11月には藍綬褒章を受章。これは、公共の利益に貢献した個人に贈られる褒章であり、渋谷氏の実業界、特に製紙業界における功労が社会的に認められたことを示している。さらに、1980年（昭和55年）4月には勲二等旭日重光章を受章した。旭日章は功績の内容に着目して贈られる勲章であり、勲二等は重光章として特に大きな功績を挙げた者に授与される。これらの栄典は、渋谷氏が日本の産業界、特に製紙業界の発展に果たした役割の大きさを物語っている。

経営の第一線から身を引き、相談役として会社を見守る日々を送った後、渋谷健一は1997年（平成9年）1月10日、肺炎のため静かにその生涯を閉じた。享年91歳であった。彼は、激動の昭和から平成にかけて、日本の製紙産業を支え、その発展に貢献した偉大な経営者の一人として、その名を歴史に刻んでいる。

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