渋谷森久

渋谷森久（しぶやもりひさ）

渋谷森久は（1939年 - 1997年11月25日）は、日本の音楽界において多岐にわたる活躍を見せた人物です。音楽ディレクター、音楽プロデューサー、そして編曲家として、日本のポピュラー音楽から舞台音楽、テーマパーク音楽に至るまで、幅広い分野でその手腕を発揮しました。

音楽業界でのキャリア

大学卒業後、1961年に東芝音楽工業（現在のユニバーサルミュージック合同会社）に入社しました。入社早々から、当時の音楽シーンを牽引していたクレージーキャッツや、日本を代表するシャンソン歌手である越路吹雪といった大物アーティストたちの担当となり、数々のヒット曲制作に深く関わりました。特にディレクターとしては、現場の進行管理からアーティストとのコミュニケーション、楽曲の方向性決定まで、制作の最前線で辣腕を振るい、音楽業界内で敏腕ディレクターとしての名声を確立しました。ただし、入社直後の担当曲、例えば「スーダラ節」などについては、主に事務的な役割に徹し、直接的な制作実務には関わらなかったとされています。

編曲家として活動する際には、モーリー・グレイという名義を用いることもありました。また、音楽活動の傍ら、毛利久という別名義でメディアにも登場しています。具体的には、1973年10月から1974年3月にかけて、深夜の人気ラジオ番組「オールナイトニッポン」の水曜日パーソナリティを務めたほか、テレビドラマ「寺内貫太郎一家」には、居酒屋の常連客として出演するなど、多才な一面を見せました。

舞台・テーマパークへの貢献

渋谷氏は、東芝音楽工業に在籍中から、劇団四季代表である浅利慶太氏からの強い信頼を得て、同劇団の音響デザインを手がけるようになりました。音響デザインは、舞台空間における音の演出や響きを設計する重要な役割であり、劇団四季の作品世界を構築する上で欠かせない要素でした。東芝を離れて独立した後は、正式に劇団四季の音楽監督に就任し、劇団の音楽部門を統括。ミュージカル「エビータ」（1982年初演）、「ジーザス・クライスト＝スーパースター」（1987年版）、「ドリーミング」（1985年初演）など、劇団四季を代表する多くの作品に関わりました。その他にも、越路吹雪のロングリサイタル（1978年）の音響構成や、西城秀樹主演の「わが青春の北壁」（1977年）、大地真央主演の「麗しきモノクロの嘘」（1987年）など、数多くの舞台作品に音楽監督や音響担当として携わっています。

劇団四季での活動と並行して、彼は日本のエンターテイメント史において特筆すべき大きなプロジェクトにも関わりました。それは、1983年に開園した東京ディズニーランドです。渋谷氏は開園準備段階から音楽監督として参画し、パーク全体のサウンドデザインやショー、パレードの音楽制作を指揮しました。世界のディズニーリゾートに比肩するクオリティを持つ東京ディズニーランドの「音」の空間を作り上げる上で、彼の役割は極めて重要でした。

人材発掘と育成

渋谷氏は自身の音楽制作や舞台活動の傍ら、新しい才能を見出し、適切な場で活躍させることにも力を注ぎました。優れた人材を見抜く確かな眼を持ち、多くの実力者を様々な分野に推薦しています。例えば、音楽大学で学んでいた宮川彬良氏を劇団四季と東京ディズニーランドに、数々のヒット曲を手がけた作曲家の三木たかし氏を劇団四季に、そして作曲・編曲家の佐橋俊彦氏を東京ディズニーランドにそれぞれ推薦するなど、後の日本の音楽界や舞台芸術界、映像音楽の世界で重要な役割を果たすことになる多くの才能を世に送り出すことに貢献しました。

手がけた主な作品とアーティスト

ディレクター、プロデューサーとしては、前述の越路吹雪、クレージーキャッツ以外にも、植木等、加山雄三、独自の音楽世界を築いた浅川マキ、アイドル歌手の伊藤咲子、大場久美子、少女隊、そして稀代のヴォーカリスト本田美奈子など、幅広いジャンルのアーティストの作品を手がけました。特に伊藤咲子とは、当時の日本人歌手としては異例のイギリス・ロンドンのアビー・ロード・スタジオでのレコーディングを敢行し、話題となりました。また、大場久美子の1978年のアルバム「微笑のメロディー」では、劇団四季とのコラボレーションによるミュージカル形式の楽曲「五つの鍵」を企画・構成しています。本田美奈子のアルバム「JUNCTION」（1994年）では、作詞家の岩谷時子氏と共同でプロデュースを担当しました。

映画音楽の分野では、瀬戸内少年野球団・青春篇最後の楽園（1987年）や、本田美奈子主演のパッセンジャー過ぎ去りし日々（1987年）などに関わっています。

晩年と死去

1997年11月25日、リウマチ性弁膜症のため、58歳という若さでこの世を去りました。彼の突然の死は、音楽業界、そして舞台やテーマパーク関係者に大きな衝撃を与えました。

渋谷氏がプロデュースを手がけた本田美奈子のアルバム「時」は、奇しくも渋谷氏の命日である11月25日に合わせて、2004年に発売されています。

渋谷森久氏は、ディレクター、プロデューサー、編曲家、そして音楽監督として、日本のエンターテイメントシーンの発展に多大な貢献をした人物であり、彼が関わった作品や発掘した才能は、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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