菊川英山

菊川英山（きくかわ えいざん）

菊川英山は、江戸時代後期の浮世絵師であり、菊川派の祖として知られています。天明7年（1787年）に生まれ、慶応3年6月16日（1867年7月17日）に81歳で没しました。本名は菊川俊信、通称を近江屋万五郎といいましたが、『江戸方角分』には佐花屋万吉と記されています。重九斎、児玉屋英山といった別号も持っていました。

生い立ちと画業

英山は、江戸市ヶ谷で造花業を営む近江屋菊川英二の息子として生まれました。父の英二は狩野派の絵師・狩野東舎の門人であったため、英山は幼少期から絵画に触れる機会に恵まれました。父から絵を学んだ後、鈴木南嶺にも師事し、さらに幼馴染の魚屋北渓を通じて葛飾北斎の画風も学びました。初期には役者絵を描いていましたが、天保の頃には大錦縦二枚続の美人画を創案し、美人画を数多く手掛けるようになります。

文化初期、17歳頃には浮世絵師として独立し、その後没するまで作画を続けました。文化3年（1806年）に喜多川歌麿が急逝すると、その美人画を求める声が高まりました。そこに文化4年（1807年）頃、堀江町の団扇問屋が英山の団扇絵を売り出したのをきっかけに、英山は歌麿風の美人画で人気を博します。初期の作風は歌麿晩年に似ていましたが、文化7～8年頃には、物柔らかで儚げな女性の美しさを描く独自の画風を確立しました。また、文化7年から文化9年頃にかけては、合巻の挿絵も手がけました。文化中期から文政中期にかけては、美人画の揃物を多く制作し、2枚継ぎの掛物絵に全身美人を描くスタイルを広めました。

文化期は英山にとって最も人気があった時期ですが、文政期に入ると、人々の好みは歌川国貞や弟子の渓斎英泉が描く、粋で妖艶な美人画へと移行しました。時代の流れについていけなくなった英山の仕事は、文政末期には減少していきました。その後、錦絵の制作は途絶えますが、文久3年（1863年）には『江戸大節用海内蔵』の挿絵を担当しています。

晩年は不遇で、高田村（現在の高田馬場）に住む弟子の植木屋孫八の家に身を寄せました。その後、文久2年（1862年）には、上州（現在の群馬県）藤岡の呉服商児玉屋に嫁いだ娘トヨの婚家に身を寄せ、その近くに住む富裕な家の依頼で肉筆画を描き、「児玉屋英山」と呼ばれました。

没後

英山は81歳で亡くなり、墓所は群馬県藤岡市の成道寺にあります。法名は歓誉昌道英翁禅士です。

弟子

英山の弟子には、渓斎英泉、菊川英蝶、菊川英章、菊川英里、菊川英信、菊川百花、菊川英秀、菊川英賀、菊川英子、菊川英柳、菊川英重、菊川英嶺、菊川英真、菊川英玉、菊川英徳、菊川英龍、菊川英亀、菊川英琳、植木屋孫八などがいます。しかし、英山の画風を継承した者はほとんどいませんでした。英賀、英重は文政頃、女流の英子は天保頃、英柳は文化頃に活躍しました。

主な作品

錦絵

「江戸砂子香具屋八景」：大判8枚揃（文化3年、現存する英山の最古の作例）
「風流名所雪月花」：大判3枚組（文化前期）
「青楼五節句遊 重陽　わかまつや 若鶴 緑り木」：大判（文化前期、平木浮世絵財団所蔵）
「志なのや美人」：大判縦2枚続（城西大学水田美術館所蔵）
「風流狐けん」：大判3枚続（城西大学水田美術館所蔵）
「青楼行事八景　引ケ四ツの夜雨」：大判8枚揃の内（文化頃、東京国立博物館所蔵。他に「居続の暮雪」など）
「風流雪月花」（雪、月、花）：大判（文化後期）
「風流琴碁書画 琴　扇屋内花扇」：大判（文化末期、平木浮世絵財団所蔵）
「東姿源氏合」：大判、大首絵揃物の内（文政3年頃、国立国会図書館所蔵）
「源氏八景 みをつくしの夜雨　玉屋内政那木」

肉筆画

多数

参考文献

『菊川英山美人画傑作展』 リッカー美術館、1985年
熊本県立美術館編 『今西コレクション名品展Ⅲ』 熊本県立美術館、1991年
太田記念美術館編集・発行 『没後150年記念 菊川英山』 2017年11月2日
小林忠編 『肉筆浮世絵大観（2） 東京国立博物館 II 』 講談社、1995年
小林忠編 『肉筆浮世絵大観（9） 奈良県立美術館･京都府立総合資料館』 講談社、1996年
小林忠編 『肉筆浮世絵大観（10） 千葉市美術館』 講談社、1995年
藤懸静也 『増訂浮世絵』 雄山閣、1946年
日本浮世絵協会編 『原色浮世絵大百科事典』第2巻 大修館書店、1982年
吉田漱 『浮世絵の見方事典』 北辰堂、1987年
稲垣進一編 『図説浮世絵入門』〈『ふくろうの本』〉 河出書房新社、1990年
小林忠監修 『浮世絵師列伝』 平凡社<別冊太陽>、2006年

関連事項

浮世絵師一覧

外部リンク

* 山口県立萩美術館・浦上記念館　浮世絵研究データベース: 版画作品目録 - 英山作品が1470件以上収録されている。

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