湘南顔

湘南顔：日本の鉄道車両デザイン史に残るスタイル

1950年代から1960年代にかけて、日本の鉄道車両の前面デザインを席巻した「湘南顔」。その独特のスタイルは、現在でも多くの鉄道ファンの記憶に深く刻まれています。本稿では、湘南顔のデザインの特徴、国鉄をはじめとする各鉄道会社での採用事例、そしてその後の影響について詳細に解説します。

湘南顔の特徴

湘南顔とは、前面が非貫通型で、2枚の窓が配置され、窓を含む前面全体に傾斜が付けられたデザインのことを指します。明確な定義はありませんが、これらの特徴を備える車両が一般的に湘南顔と呼ばれています。窓の形状や配置にバリエーションがあり、一部の鉄道会社ではピラー付きの連続窓を採用するなど、独自の解釈が見られます。

湘南顔の起源：国鉄80系[[電車]]

湘南顔の起源は、1950年に登場した国鉄80系[[電車]]の増備車に遡ります。長距離輸送を目的としたこの電車は、東海道本線の湘南地域にちなんで「湘南[[電車]]」と呼ばれ、その車両デザインは「湘南形」と称されました。当初の80系は3枚窓でしたが、増備車ではより洗練された印象を与えるために、2枚窓の傾斜スタイルが採用されました。このデザインは、後に「湘南顔」として広く認知されることになります。

国鉄における湘南顔の普及

80系電車での成功を皮切りに、湘南顔は国鉄の様々な車両に採用されました。中距離用電車である70系電車、電気機関車EF58形、そして気動車やディーゼル機関車、更には試験用電車であるクモヤ93形にも採用され、その人気と影響力の高さを示しています。

特にEF58形は、その力強いスタイルと相まって、国鉄を代表する機関車として長く活躍しました。気動車では、キハ44000形試作車やキハ02・03形（レールバス）にも湘南顔が採用されています。これらの車両は、国鉄の様々な路線で活躍し、日本の鉄道輸送に貢献しました。

私鉄への波及効果

国鉄での成功を受けて、私鉄各社も湘南顔のデザインを採用しました。西武鉄道、京王帝都電鉄（現京王電鉄）、東急電鉄、京浜急行電鉄、京成電鉄、東武鉄道、小田急電鉄、相模鉄道、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、南海電気鉄道、阪神電気鉄道、西日本鉄道など、多くの私鉄が、それぞれの車両に湘南顔を取り入れました。

私鉄各社は、国鉄の湘南顔デザインをベースにしながらも、自社の社風や路線特性に合わせた独自の改良を加えました。例えば、西武鉄道では連続窓風2枚窓、京王電鉄ではGFRP製前面など、各社が個性的な湘南顔のデザインを展開しました。

地方私鉄における採用例

大手私鉄だけでなく、地方私鉄にも湘南顔のデザインは広く普及しました。定山渓鉄道、夕張鉄道、留萠鉄道、富士山麓電気鉄道（富士急行）、秩父鉄道、加越能鉄道、富山地方鉄道、福井鉄道、長野電鉄、伊豆箱根鉄道、静岡鉄道、遠州鉄道、近江鉄道、神戸電鉄、高松琴平電気鉄道、島原鉄道、熊延鉄道など、多くの地方私鉄が、独自の湘南顔車両を製造・導入しました。これらの車両は、各地方の地域社会を支える重要な役割を担っていました。

路面[[電車]]への採用例

路面[[電車]]にも湘南顔のデザインは採用されました。東京都電5500形、東急玉川線デハ200形、東武日光軌道線100・200形、とさでん交通600形などが、その代表例です。路面[[電車]]に採用された湘南顔は、乗降扉の配置や車体構造とのバランスを考慮した、独自のデザインとなっています。

湘南顔の系譜とその後

湘南顔は、1970年代以降、新しいデザインの車両が登場するにつれて、徐々にその姿を消していきます。しかし、その洗練されたスタイルは、日本の鉄道車両デザイン史において重要な位置を占め、後世のデザイナーにも大きな影響を与え続けています。現在でも、多くの鉄道ファンが湘南顔車両の復刻や保存に熱心に取り組んでいます。

参考文献

「旅と鉄道」編集部編『懐かしの湘南顔電車』（旅鉄BOOKS 063）、天夢人、2023年

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