湛慶

湛慶：運慶の嫡男、鎌倉時代を代表する仏師

湛慶は、鎌倉時代を代表する仏師の一人です。承安3年（1173年）に誕生し、建長8年（1256年）に没しました。父は、鎌倉仏教彫刻界の巨匠として名高い運慶です。運慶の息子たちは、康運、康弁、康勝など多くが仏師となりましたが、その中でも湛慶は嫡男として、父・運慶、そして快慶と並ぶ仏師の大家として知られています。

湛慶の約60年に及ぶ活動は、大きく3つの時期に分けられます。

第1期：父・運慶との共同作業と奈良仏師としての活動

初期の湛慶は、父である運慶や、慶派の他の有力な仏師たちと共同で制作活動を行いました。主な活動拠点は奈良で、東大寺を中心とした寺院で数々の仏像彫刻を手掛けました。この期間は、運慶の没年である貞応2年（1223年）頃までとされています。建暦3年（1212年）、41歳の若さで最高の僧綱位である法印に叙任されていますが、この頃は運慶や快慶も活躍しており、湛慶が中心となって活躍する機会は少なかったようです。しかし、この頃の経験が、湛慶の後の作風に大きな影響を与えたと考えられています。湛慶の作風は、運慶の力強い表現力と、快慶の絵画的な写実性を巧みに融合させた、穏やかで洗練されたものとして高く評価されています。この独特の様式は、まさに初期の共同作業の中で培われたものと言えるでしょう。

第2期：南都からの離脱と独自の作風確立

貞応3年（1224年）の平岡善妙寺の造像から、宝治2年（1248年）の後嵯峨院のための造像の頃までが、湛慶の第二期にあたります。この頃からは、奈良での活動が全く見られなくなります。これは、慶派の仏師たちの活動の中心が南都（奈良）から離れていったことを示唆しています。この時期の作品には、愛らしさと慈しみを感じさせるものが多いのが特徴です。「善膩師童子像」（雪蹊寺）や高山寺の狛犬・仔犬などがその代表例です。特に、高山寺の仔犬や鹿などは、動物の自然な仕草を写実的に捉えた、これまでにない表現が特徴的です。これらの作品は、高山寺の僧侶、明恵との交流を通して、湛慶が万物への慈しみという宗教的な境地を深めた結果生まれたものだと考えられています。

第3期：晩年の京都での活躍と三十三間堂の千手観音

湛慶の晩年は、京都での活動が中心となります。東大寺講堂本像の造立途中で亡くなるまでが、この最後の時期です。この頃の代表作として最も有名なのが、京都・妙法院蓮華王院本堂（三十三間堂）の本尊である千手観音像です。銘文から、この巨像が湛慶82歳の最晩年に完成したことが分かっています。三十三間堂には、千体（正確には1001体）もの千手観音立像が安置されていますが、その中には湛慶作の銘を持つ像もいくつか存在します。三十三間堂の千手観音像は、復興事業という性格上、慶派仏師特有の力強い表現は抑えられ、平安後期彫刻の洗練された静けさを再現しようとしたものと考えられます。しかし、その面相はやや平板で整然とした印象を与え、このことから、後の仏像彫刻における平俗化、技巧化、形式化の予兆を見るという意見もあります。

湛慶の死後、大仏師の職は、その甥である康円が継承したと考えられています。また、信慶は湛慶の弟子として知られています。

代表作

湛慶の代表作には、以下のものがあります。

木造千手観音坐像（妙法院・三十三間堂本尊、国宝）
木造毘沙門天及び両脇侍立像（雪蹊寺、重要文化財）
木造善妙神立像・白光神立像（高山寺、重要文化財）
狛犬（高山寺、重要文化財）
神鹿（高山寺、重要文化財）
仔犬（高山寺、重要文化財）

湛慶は、その卓越した技量と深い宗教性を融合させた仏師として、日本の仏像彫刻の歴史に大きな足跡を残しました。

もう一度検索