湯谷温泉 (愛知県)

湯谷温泉

愛知県新城市、かつて三河国と呼ばれた地に湯谷温泉は位置しています。鳳来峡の美しい景観に抱かれるように宇連川沿いに広がるこの温泉地は、長い歴史を持ち、日本百名湯の一つにも数えられています。

古代からの湯の伝説

湯谷温泉の歴史は非常に古く、その始まりは約1300年前に遡ると伝えられています。開湯に関する伝説によれば、この地の名刹である鳳来寺を開いた高僧、利修仙人によって発見されたとされています。仙人が見出したというその源泉は「鳳液泉」と名付けられ、これが現在の湯谷温泉へと繋がっていると言われています。当時の記録を集めた「長篠村史」には、「仙人はこの温泉の優れた効能によって心身の調和を保ち、厳しい修行を極めて悟りを開き、驚くべきことに308歳という長寿を全うした」との記述が残されており、古くから湯谷温泉が特別な力を持つ場所として認識されていたことがうかがえます。

多様な泉質

湯谷温泉には複数の源泉があり、それぞれ異なる特徴を持っています。主要な源泉としては、古くから分析されているものから比較的新しいものまで様々です。

湯谷温泉1号泉

昭和31年に分析されたこの源泉は、ナトリウム・カルシウム-塩化物泉に分類される低張性弱アルカリ性冷鉱泉です。源泉温度は19.5℃で、湧出量は不明ですが、自噴していることが特徴です。ただし、2000年時点では利用されていませんでした。

湯谷温泉4号泉

昭和37年に分析された4号泉も、1号泉と同様のナトリウム・カルシウム-塩化物泉（低張性弱アルカリ性冷鉱泉）です。源泉温度は24.2℃、湧出量は毎分100リットルと記録されていますが、こちらも2000年時点では未利用でした。

湯谷温泉5号泉

平成10年に分析が行われた5号泉は、ナトリウム・カルシウム-塩化物泉（低張性中性低温泉）です。源泉温度は28.8℃とやや高めになり、毎分500リットルという豊富な湧出量を誇ります。

湯谷温泉6号泉

同じく平成10年に分析された6号泉は、単純温泉（低張性弱アルカリ性低温泉）です。源泉温度は25.9℃で、毎分380リットルが湧出しています。

湯谷温泉7号泉

比較的新しい源泉である7号泉は、平成20年2月に湧出し、平成29年に分析されました。泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物泉（低張性中性低温泉）で、源泉温度は35.9℃と比較的高温ですが、湧出量は不明です。

これらの多様な泉質を持つ湯が、古来より多くの人々に利用されてきました。

期待される効能

湯谷温泉の湯は、古くから様々な疾患への効能が言い伝えられてきました。一般的に、皮膚病、婦人病、更年期障害、リウマチなどに効果があるとされています。

鳳来峡が生み出す温泉街の魅力

温泉街は、国の名勝に指定されている鳳来峡の景観の中に溶け込むように広がっています。清らかな宇連川沿いを散策すると、自然が作り出した見どころが点在しています。

特に目を引くのは、国の天然記念物である「馬背岩」です。馬の背のように見える独特な形状をした岩は、訪れる人々の関心を引きます。また、宇連川の川幅いっぱいに広がる岩盤を、約4メートルの高さから流れ落ちる「湯谷大滝」も圧巻です。この滝の迫力ある姿は、温泉街のシンボルの一つとも言えます。

さらに、宇連川に架かる吊橋「浮石橋」からの眺めも格別です。この橋からは、眼下に流れる川と、周囲の山々、そして馬背岩や湯谷大滝といった景勝地を一望することができます。

温泉街の入り口近く、愛知県道439号と鳳来寺山パークウェイの分岐点には、珍しい温泉スタンドが設けられており、源泉を購入して持ち帰ることが可能です。また、2008年（平成20年）には、気軽に立ち寄って湯を楽しめる足湯も設置され、多くの利用者に親しまれています。温泉街の北側には、日帰りで湯を満喫できる公共入浴施設もあります。

周辺の見どころ

湯谷温泉を訪れる際は、周辺の観光地にも足を延ばしてみる価値があります。歴史ある鳳来寺や鳳来山東照宮、豊かな自然を満喫できる愛知県民の森や乳岩峡、戦国時代の舞台となった長篠城跡、そして愛知のナイアガラとも称される阿寺の七滝など、見どころが豊富にあります。

アクセス

湯谷温泉へのアクセスは、鉄道を利用する場合、JR飯田線の湯谷温泉駅で下車するのが便利です。自家用車の場合は、国道151号から愛知県道439号能登瀬新城線方面へ向かうことで到着できます。

ゆかりの人物

伝説上の利修仙人だけでなく、現代においてはミュージシャンの忌野清志郎氏が生前しばしば滞在していた場所としても知られています。

湯谷温泉は、歴史と自然、そして多様な湯が織りなす魅力的な温泉地として、今も多くの人々を惹きつけています。

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