源内焼六術和尚

源内焼六術和尚

『源内焼六術和尚』（げんないやきむじゅつおしょう）は、小栗虫太郎が執筆した短編探偵小説で、初めて公開されたのは1936年1月の『ぷろふいる』第4巻第1号です。その後、加筆修正が施され、同年9月には『二十世紀鉄仮面』というタイトルで出版されました。この作品の特異な点は、暗号文が登場し、読者に解読結果が提示されないことにあります。この構造によって、作品はミステリー的な魅力を増し、評価されるようになりました。

あらすじ

物語は、天明元年（1781年）の正月4日、浮世絵師たちによる腕比べの場面から始まります。ここには平賀源内が参加しておらず、彼は前年の殺人事件により投獄されています。この事件は、源内が職人の久五郎と口論になり、算勘書の盗難を巡る争いから始まりました。源内は、その算勘書が自宅以外で発見されれば罪が軽くなると考えています。

その間、源内の妾であるおりんが登場し、源内焼の皿を持参します。この皿に描かれた南蛮船と福禄寿の図案は、源内が「六術和尚」と呼んでいた言葉と結び付き、彼の無実を訴える象徴とされます。物語は、この皿に刻まれた小さな文字によって、『女人国明野夢』に繋がります。

人間模様の解体

作中作『女人国明野夢』では、寛永15年（1638年）、島原の乱の最中に起こる事件が描かれています。一木開十郎という武士が、戦闘中に温泉岳の人穴に落ち、そこで発見した本にはキリスト教に関する物語が書かれていました。この本が後に、貴重な情報として物語の中心となっていきます。

その本には、保羅（パウロ）の教えに関する物語『保羅創教之次第』が含まれています。サウロという若者が、イエスとその偉業について調査を開始する様子が描かれており、聖書の物語を背景にして、サウロがどのようにして信仰の根源を探ろうとしたかが語られています。物語が進むにつれ、ユダやマリアなどの登場人物の秘密や、信仰と裏切りの交錯が浮き彫りになります。

評価と分析

初出の『ぷろふいる』では、本作が「探偵小説ファンへの年玉」と称賛されましたが、その文章スタイルについては賛否がありました。特に戯作調の表現が一部批評家に不評だったことも魅力的です。また、暗号文が解読されないままストーリーが進行するため、読者はその謎を解く楽しみを求め続けます。

この作品はその後、再評価されるきっかけとなる暗号研究が行われました。特に、1980年に推理作家の二瓶寛が暗号の解読に成功したとの発表は、作品への新たな視点を与えました。暗号の解析は、日本語のカナ文字によるものとして、複数の解釈があることが分かり、興味深い議論が展開されています。

結論

『源内焼六術和尚』は、探偵小説の枠を超え、深い心理描写や宗教的なテーマが盛り込まれた作品です。二重構造による複雑性と暗号のミステリーが絶妙に絡み合い、読み応えのあるストーリーラインを形成しています。この作品を通じて、小栗虫太郎の独創性と文学的な探求心が感じられることでしょう。

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