源氏物語別本集成

『源氏物語別本集成』：多様な写本から読み解く古典文学の世界

『源氏物語別本集成』は、『源氏物語』の多様な写本、特に古伝本系別本を網羅した、画期的な校本です。陽明文庫本を底本に、膨大な数の写本を比較検討することで、従来の研究ではアクセス困難であった貴重な本文情報を提供しています。

研究史における位置づけ

紫式部による原本は現存しないため、『源氏物語』の研究には正確な校本が不可欠です。これまで『校異源氏物語』や『源氏物語大成　校異編』などが利用されてきましたが、調査可能な写本が限られていたこと、青表紙本中心の校合であったことなど、いくつかの限界がありました。

『源氏物語別本集成』は、それらの限界を克服するため、1989年から2002年にかけて全15巻を刊行。その後、新たに発見された写本などを収録した『源氏物語別本集成　続』の刊行も開始されましたが、2010年に第7巻で中断しています。

この事業は、伊井春樹氏を代表とする「源氏物語別本集成刊行会」によって推進され、80名を超える研究者たちが参加。写本調査、翻字、校正、データ入力、修正といった作業を分担し、高い精度と信頼性を確保しています。調査対象となった写本は延べ376帖にも及びます。

本書の特色

1. 豊富な別本収録: 影印本や翻刻本が存在しない別本も多く収録されており、これら写本の本文を検証できる貴重な資料となっています。

2. 綿密な校合: 多数の写本を比較検討し、詳細な校異を掲載。各帖・写本ごとに異なる担当者が作業を行い、作業担当者一覧も公開することで、透明性を高めています。

3. コンピュータ活用: 本書は、国文学研究におけるコンピュータ利用の先駆的な事例でもあります。データの電子化も予定されており、デジタルテキストとしての活用も期待されています。

4. 別本の概念の再定義: 『源氏物語別本集成 続』では、青表紙本と別本の二分類を解消し、「河内本とみなせる写本以外はすべて別本」と定義を改めました。これにより、より包括的な別本研究が可能となりました。

5. 底本の選択: 基本的に陽明文庫本を底本としていますが、青表紙本や河内本の本文を含む巻については、麦生本や保坂本などを底本として用いています。続編では、全帖にわたって陽明文庫本を底本とする方針に変更されました。

収録写本

『源氏物語別本集成』と『源氏物語別本集成 続』では、多数の写本を校合しています。主な写本としては、麦生本、保坂本、国冬本、阿里莫本、御物本、高松宮本、三条西家本、東大本、中京大本、言経本、中山本、伝為相筆本、伝為氏筆本、伝讃岐筆本、蓬左文庫本、善本叢書本、池田本、尾州家河内本などがあります。続編では、さらに多くの写本が追加収録されています。

本書の構成と特徴

各巻は、概ね均等な文字数になるように、数帖ずつに分割されています。見開き2ページで、本文と校異を掲載。文節番号を付することで、本文の位置を容易に特定できるように工夫されています。

『源氏物語別本集成 続』では、レイアウトの見直し、文節番号の変更など、様々な改善が図られています。

まとめ

『源氏物語別本集成』とその続編は、多様な写本を網羅した、質の高い校本です。膨大な情報量、綿密な校訂、コンピュータ活用の先進性、そして別本研究への貢献など、多くの点で高く評価されています。今後も、源氏物語研究において重要な資料として活用されていくでしょう。

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