溝口真希子

日本の劇作家、脚本家、演出家、そして映画監督として多岐にわたる活動を展開する溝口真希子（みぞぐち まきこ）は、1976年に長崎県西彼杵郡長与町に生まれました。主に「ペヤンヌマキ」という名義で精力的に創作活動を行っており、演劇ユニット「ブス会＊」を主宰しています。彼女の作品は、人間の内面や社会の片隅に光を当てる視点と、時に辛辣でありながらも温かさを感じさせる独特の筆致が特徴です。

来歴と初期の活動

長崎県で育った溝口は、地元の長与小学校、長与中学校を経て長崎北陽台高等学校を卒業後、上京し早稲田大学第一文学部へと進学しました。大学在学中の1996年、後の演劇界で異才を放つ三浦大輔が立ち上げた劇団「ポツドール」の創設にメンバーとして加わります。ここでの経験が、彼女の演劇人としての基礎を築く上で重要な役割を果たしました。

演劇活動と並行して、映像制作にも早期から関心を示していました。2000年には、三浦大輔と共同で監督を務めた自主製作映画『はつこい』が、若手映画監督の登竜門として知られるぴあフィルムフェスティバル（PFF）において審査員特別賞を受賞し、PFFin神戸ではグランプリを獲得するという栄誉に浴しました。この受賞は、映像作家としての才能をも示すものとなりました。

演劇ユニット「ブス会＊」と岸田國士戯曲賞

ポツドールでは、2006年に初の番外公演として上演された『女のみち』、そして翌2007年の『女の果て』といった「女」シリーズにおいて、脚本と演出を一人で担当し、独自の作風を確立していきます。

そして2010年、溝口真希子は自身の創作世界をさらに深めるため、演劇ユニット「ブス会」を新たに立ち上げました（後に「ブス会＊」に改称）。このユニットを拠点に、『女の罪』（2010年）、『淑女』（2011年）、『女のみち2012』（2012年、2015年に再演）、『男たらし』（2014年）、『お母さんが一緒』（2015年）など、人間の様々な「業」や社会の歪みを鋭くもユーモラスに描いた作品群を次々と発表します。

これらの活動は演劇界で高い評価を受け、特に『男たらし』は第59回岸田國士戯曲賞の最終候補に、翌年の『お母さんが一緒』も第60回同賞の最終候補として連続して名を連ねました。これは、劇作家ペヤンヌマキの才能が広く認められた証と言えるでしょう。

映像作品での活躍

舞台作品の創作に加え、溝口真希子（ペヤンヌマキ）はテレビドラマの世界でも脚本家・監督として多くの実績を残しています。脚本を担当した作品には、『恋のツキ』、『有村架純の撮休』、そして長期シリーズとなった『来世ではちゃんとします』などがあり、現代人の抱える恋愛や生き方のリアルを巧みに描き出しました。また、『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』では監督としても参加し、多才ぶりを発揮しています。

ドキュメンタリー映画への挑戦

近年の活動で特筆すべきは、ドキュメンタリー映画への取り組みです。2022年、東京都の道路拡張計画による住民の立ち退き問題に危機感を抱いていた溝口は、杉並区長選挙に立候補した岸本聡子の市民運動を間近で記録することを決意します。自ら街頭でビラ配りを手伝い、借り物のカメラで候補者と支援者たちの姿を追い続けました。この選挙期間中にYouTubeで配信されたシリーズ動画を基に、ペヤンヌマキ名義で監督したドキュメンタリー映画『映画 ○月○日、区長になる女。』が2024年に公開され、大きな反響を呼びました。これは、社会的なテーマにコミットし、映像表現を通じて問題を提起する彼女の新たな一面を示すものとなりました。

その他の活動

演劇、映画、テレビドラマ以外にも、著書として『たたかえ! ブス魂 コンプレックスとかエロとか三十路とか』を発表しており、その率直でパワフルな言葉は多くの読者に支持されています。また、ウェブ番組などにも出演し、自身の考えを発信しています。

溝口真希子、すなわちペヤンヌマキは、演劇、映像、出版と、表現の場を選ばず、常に人間や社会のリアルを見つめ、独自の感性で切り取った作品を生み出し続けています。その活動は、今後もさらなる広がりを見せていくことでしょう。

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