溶け出したガラス箱

『溶け出したガラス箱』

1970年11月、日本のインディーズレーベルURCレコードからリリースされたアルバム、『溶け出したガラス箱』（とけだしたがらすばこ）は、「吐痙唾舐汰伽藍沙箱」（とけだしたがらすばこ）というユニークな名義で発表された作品です。この名称は、中心メンバーである木田高介、西岡たかし、斉藤哲夫の3人によるプロジェクトを示すものであり、彼らのスタジオでの音楽探求の成果が凝縮されています。

本作が誕生するきっかけとなったのは、西岡たかしが斉藤哲夫の歌声に深い感銘を受け、「自分も斉藤哲夫のような表現に挑戦したい」という強い思いを抱いたことでした。この純粋な音楽的探求心が出発点となり、予測不可能なサウンドが生み出されていきます。

『溶け出したガラス箱』は、しばしば「音のオモチャ箱」あるいは「音の洪水」と形容されるほど、実験的なサウンドが満載されたアルバムです。フォークを基調としながらも、様々な楽器やアレンジが複雑に織り交ぜられ、当時の一般的な音楽とは一線を画すユニークな世界観を構築しています。

このプロジェクトの特異な点は、メンバー3人によるライブ活動が一切行われなかったことです。アルバム発売後もプロモーションらしい活動はほとんどなく、純粋にレコーディングという行為そのものに焦点を当てた、異例とも言える制作スタイルが貫かれました。考えてみれば、これは非常に贅沢であり、同時にミステリアスな背景を持つアルバムと言えるでしょう。

アルバム制作には、当時の音楽シーンを彩る豪華なゲストミュージシャンたちが参加しています。ジャパニーズ・ポップスの黎明期を支えた加藤和彦、後にYMOで世界的な活躍を果たす細野晴臣、ブルースロックの先駆者である竹田和夫、そして多彩な鍵盤楽器奏者の上村律夫といった面々が、サウンドに深みと多様性を加えています。

当時のエピソードとして、ミュージシャンのなぎら健壱は、斉藤哲夫が自身のアーティストイメージとアルバムの音楽性との間に葛藤を抱えていたことを証言しています。特に、西岡たかしが提供した楽曲「何がなんだかわからない時」や「さっきの君が」のレコーディング時には、「自分のイメージとは少し違うかもしれない」と深く思い悩み、苦悶していた様子が伝えられています。このエピソードは、本作が単なる実験作ではなく、参加アーティストそれぞれの真摯な音楽への向き合い方の中で生まれた作品であることを示唆しています。

収録曲

全曲の作詞・作曲は西岡たかし、編曲は木田高介が担当しています。

SIDE A

あんまり深すぎて (5:22)
何がなんだかわからない時 (5:56)
君はだれなんだ (2:57)
まるで君と同じのっぺら坊で (3:59)

SIDE B

ボクの右手の二本の指 (1:42)
マイケルの髪 (5:41)
小さな花が道ばたに... (3:41)
さっき君が (2:44)

レコーディング参加者

各楽曲には、中心の3人に加え、様々なミュージシャンが参加しています。特にベースのさえきまさし、ドラムや管楽器、サン・オーケストラ担当の木田高介、ギターの竹田和夫、鍵盤の上村律夫は多くの楽曲に参加しています。

あんまり深すぎて
歌: 西岡たかし, 木田高介
ギター: 竹田和夫
ピアニカ: 上村律夫
ベース・ギター: さえきまさし
ドラム: 木田高介
その他: サン・オーケストラ
何がなんだかわからない時
歌: 斉藤哲夫
ギター: 加藤和彦, 竹田和夫
フルート: 木田高介
ベース・ギター: さえきまさし
ドラム: 木田高介
その他: サン・オーケストラ
君はだれなんだ
歌: 西岡たかし, 斉藤哲夫
ギター: 竹田和夫
テナー・サックス: 木田高介
ベース・ギター: さえきまさし
ドラム: 木田高介
その他: サン・オーケストラ
まるで君と同じのっぺら坊で
歌: 西岡たかし, 斉藤哲夫
ギター: 加藤和彦
フルート: 木田高介
オルガン: 上村律夫
ベース・ギター: さえきまさし
ドラム: 木田高介
ボクの右手の二本の指
歌: 西岡たかし, 斉藤哲夫
パーカッション: 西岡たかし, 木田高介, 斉藤哲夫
ピアノ: 上村律夫
ベース・ギター: さえきまさし
ドラム: 木田高介
マイケルの髪
歌: 西岡たかし
ギター: 加藤和彦, 竹田和夫
テナー・サックス: 木田高介
オルガン: 上村律夫
ベース・ギター: さえきまさし
ドラム: 木田高介
その他: サン・オーケストラ
小さな花が道ばたに...
歌: 西岡たかし
フルート: 木田高介
ベース・ギター: 細野晴臣
パーカッション: 西岡たかし
ビブラフォン: 上村律夫
ドラム: 木田高介
さっき君が
歌: 斉藤哲夫
ギター: 加藤和彦, 竹田和夫
フルート: 木田高介
ベース・ギター: さえきまさし
ドラム: 木田高介
その他: サン・オーケストラ

スタッフ

イラスト、写真: 水野イサオ
デザイン: 矢吹申彦
ミキサー: 島雄一, 四家秀次郎
ディレクター: 西岡たかし, 木田高介
* プロデュース: 秦政明

2015年にはデラックス・エディションが発売され、URCレコードの倉庫から発見された未発表のバッキング・トラックがDisc2として追加収録されました。これにより、制作当時の試行錯誤の様子を垣間見ることができます。

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