滝脇松平家

滝脇松平家：複雑な系譜と華麗なる歴史

滝脇松平家（後の滝脇家）は、松平氏の庶流を成す武家・華族です。その起源は、松平親忠の九男・乗清に遡ります。三河国加茂郡滝脇（現在の愛知県豊田市滝脇町）を領したことから、この名が付けられました。江戸時代には、滝脇松平家から大名家（駿河小島藩主家）が誕生し、明治維新後には「滝脇」に改姓、華族の子爵家に列せられました。しかしながら、その系譜には不明な点も多く、歴史研究においては複雑な要素を含む家系と言えるでしょう。

系譜をめぐる謎：複数の記録と解釈

滝脇松平家の系譜は、複数の歴史資料によって異なった記述がなされており、その解釈には諸説あります。『寛政重修諸家譜』（以下『寛政譜』）では、旗本2家のみを滝脇松平家として掲載し、小島藩主家を含む系統（麻生松平家）については別途、関連系譜として扱っています。

『寛永諸家系図伝』（以下『寛永系図』）と『寛政譜』によると、家祖の乗清は、松平親忠の子であり、大給松平乗元の弟とされています。しかし『寛政譜』には、乗清を乗元の子とする異説も記されており、大給松平家の庶流という可能性も示唆されています。

乗清とその子・乗遠は弘治2年（1556年）に戦死しました。その嫡男・正乗も同年に戦死しており、その弟である乗高が復讐を果たしたという逸話も残されています。乗清、乗遠、正乗を弔うため、滝脇村に長松院が開基されたと言われています。

松平乗高とその子孫：家康への仕えと繁栄

乗高は徳川家康に仕え、三河一向一揆や二俣城攻めなどで軍功を挙げました。小田原攻めでは秀吉の饗応にあたり、家康から褒賞を受けています。御留守居番を務め、組子120人を預かるなど、重要な役割を担っていました。

乗高の子・乗次は関ヶ原の戦いに従軍し、三河国で600石の知行を得ました。徳川家光付きとなり、御書院番組頭を務め、従五位下に叙せられ、監物と称しました。『寛政譜』で滝脇家として扱われているのは、乗次の家を継いだ正貞の系統（松平監物乗道）、及び乗次の実子乗久の系統（松平市郎右衛門乗武）の2家です。

麻生松平家：複雑な分家筋

天正12年（1584年）に戦死した松平四郎右衛門正忠も、滝脇松平家の一族とされています。『寛政譜』では、乗清の長男・親正の子・清房が麻生を領し、その子が正忠であるとされています。しかし、『寛永系図』は詳細を記しておらず、『寛政譜』も、乗清の没年や葬地が滝脇松平家の家譜と一致しない点を指摘し、この系統を滝脇家とは別系統として扱っています。この麻生松平家からは、後に松平岩次郎正敏家が生まれます。

小島藩主家：大坂の陣と華麗なる転身

大坂夏の陣で戦死した松平正勝は、後の小島藩主家の祖となります。『寛政譜』では、正勝は麻生松平家と同じ系統に属し、松平正忠の次男とされています。正勝の跡を継いだ重信（形原松平家出身）は、小姓組番頭、書院番頭、大番頭などを歴任し、駿府城代を務め、知行も増加しました。その後も養子相続が続き、元禄2年（1689年）には信孝が1万石の大名となり、駿河小島藩が成立しました。この小島藩は幕末まで続きました。

明治維新後：華族としての新たな歩み

明治維新後、最後の藩主・松平信敏は桜井藩知事を務めました。華族制度成立により、滝脇家は子爵家に列せられ、家名を「滝脇」に改めました。4代子爵宏光は政界、実業界で活躍し、朝鮮での事業展開も行いました。

滝脇松平家は、複雑な系譜と、大名家から華族への変遷という、興味深い歴史を持つ家系です。その系譜の詳細は、今後の研究によってさらに明らかになることが期待されます。様々な史料を総合的に検討することで、より詳細な家系図の作成や、歴史的背景の解明が可能となるでしょう。

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