漆川梁海戦

漆川梁海戦（しっせんりょうかいせん）

漆川梁海戦は、慶長の役における最初の大きな海戦として知られ、巨済島海戦とも称されます。この戦いは、日本水軍と朝鮮水軍の間で慶長2年（1597年）に発生し、朝鮮水軍が壊滅的な敗北を喫したことで、その後の戦局に大きな影響を与えました。

戦いの背景

文禄の役が終結し、一度は講和が試みられましたが、交渉は最終的に決裂します。これにより、慶長の役が始まることとなりました。朝鮮水軍は文禄の役後、日本軍の動きに迅速に対応するため、本営を閑山島へと移し、海峡を挟んで対岸の巨済島方面を警戒していました。慶長の役開始にあたり、釜山周辺に集結しつつあった日本軍に対し、朝鮮朝廷からは水軍単独での攻撃命令が出されます。

当時の朝鮮三道水軍統制使であった李舜臣は、この単独攻撃の危険性を強く感じ、慎重な姿勢を示しました。しかし、これは朝廷内の党争や、ライバルであった元均による讒言と結びつき、李舜臣は官位を剥奪され、一兵卒として従軍する「白衣従軍」を命じられます。その後任として三道水軍統制使に就任したのが元均でしたが、彼も当初は攻撃命令に対し消極的でした。

戦いの経過

再三の命令を受け、元均は慶長2年（1597年）6月18日、ついに艦隊を率いて出撃します。翌19日には安骨浦や加徳島方面で日本軍と交戦しましたが、幹部に負傷者が出るなど被害を受け、一旦閑山島まで後退せざるを得ませんでした。その後、元均は命令通り艦隊を二つに分け、7月初旬に再度出撃。7月7日には加徳島に上陸して給水を行っていたところを、日本軍の高橋統増隊や筑紫広門隊による攻撃を受け、敗走します。この失敗に都元帥（全朝鮮軍の最高司令官）の権慄は激怒し、元均を厳しく叱責して杖罰に処したと伝えられています。

漆川梁での壊滅

権慄の厳しい叱責を受け、元均は7月14日に閑山島の本営を再び出撃します。そして翌15日の夜半、巨済島と漆川島（現在の七川島）の間に位置する漆川梁に艦隊を停泊させました。この朝鮮水軍の動向を察知した日本軍は、海上からの攻撃と陸上からの挟撃による作戦を立てます。

7月16日の明け方、藤堂高虎、脇坂安治、加藤嘉明、菅達長といった指揮官に率いられた日本水軍が海上から猛攻を開始しました。同時に、島津義弘や小西行長らの陸上部隊もこれを援護します。不意を突かれた形となった朝鮮水軍は混乱し、日本軍は圧倒的な勝利を収めました。この戦いでは、数千人の朝鮮兵が討ち取られ、多くの者が海に落ちて溺死したとされます。また、160隻以上の艦船が日本軍によって拿捕・焼却され、朝鮮水軍は事実上壊滅しました。

朝鮮水軍の主要な指揮官も多くが戦死しました。三道水軍統制使の元均、全羅右水使の李億祺、忠清水使の崔湖は討ち死にし、慶尚右水使の裴楔のみが辛うじて戦場から脱出できたと言われています。

戦いの結果とその後の影響

漆川梁海戦での壊滅的な敗北により、朝鮮水軍は制海権をほぼ失いました。この勝利によって勢いを得た日本軍は、海上の脅威を排除されたことで、陸海両面から全羅道方面へと本格的な進撃を開始することが可能となりました。

主な編成

日本軍
水軍指揮官：藤堂高虎、脇坂安治、加藤嘉明、菅達長
陸上部隊指揮官：島津義弘、小西行長
朝鮮水軍
元均（三道水軍統制使・全羅左水使、戦死）
裴楔（慶尚右水使、逃走）
李億祺（全羅右水使、戦死）
崔湖（忠清水使、戦死）

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