漆生線

漆生線：筑豊の炭鉱と共に歩んだ鉄路の記憶

漆生線は、かつて福岡県の中央部に位置する嘉穂郡稲築町（現在の嘉麻市）の下鴨生駅から、同じく嘉麻市内の山田市にあった下山田駅を結んでいた、日本国有鉄道（国鉄）の地方交通線でした。全線が福岡近郊区間に含まれていましたが、1980年の国鉄再建法施行により第2次特定地方交通線に指定され、1986年4月1日に惜しまれつつ廃止されました。この路線は、筑豊地域の炭鉱開発と深く関わりながら、短いながらも地域住民の生活を支えた鉄路でした。

路線概要

区間: 下鴨生駅 - 下山田駅 7.9km（嘉穂信号場 - 下山田間 1.7kmは上山田線と重複）
支線: 漆生駅 - 稲築駅 1.0km（1968年廃止）
軌間: 1067mm
駅数: 5駅（全線廃止時、起終点駅含む）
複線区間: 全線単線
電化区間: 全線非電化

歴史

漆生線の歴史は、大きく二つの時期に分けることができます。

前史：石炭輸送を支えた貨物線

漆生線の一部となる区間の建設は、明治時代にまで遡ります。1902年には、三井鉱山の山野炭鉱や漆生炭鉱から産出される石炭を搬出するために、現在の後藤寺線の一部を含む区間が九州鉄道によって開業しました。その後、1913年には上三緒から漆生までの区間が筑豊本線の貨物支線として開業し、石炭輸送の重要な役割を担いました。1920年には、これらの区間が旅客営業を開始し、漆生線という名称になりました。

戦後：短絡線として開通するも

戦後の1966年、筑豊地区の炭鉱から産出される石炭を苅田港へ効率的に運ぶことを目的に、油須原線の一部として漆生から下山田までの区間が開業しました。しかし、この区間では貨物輸送は実施されず、旅客列車は上山田線と一体で運行されました。当初は5往復運行されていた旅客列車も、1972年には朝夕の2往復にまで削減され、廃止に至るまでその運行形態は変わりませんでした。

廃止への経緯

漆生線は、1980年の国鉄再建法施行により、第2次特定地方交通線に指定され、廃止の対象となりました。当初は第1次廃止対象でしたが、沿線に建設された大坪団地による乗降客増加の見込みから、第2次廃止対象へと変更されました。しかし、最終的には1986年4月1日に全線が廃止されました。この路線は、第2次特定地方交通線の中で最初に廃止された路線となりました。

年表

1902年: 九州鉄道が山野分岐点 - 芳雄 - 山野間を開業
1913年: 筑豊本線（貨物線）上三緒 - 漆生間を延伸開業
1920年: 芳雄 - 漆生間、上三緒 - 山野間の旅客営業を開始、漆生線となる
1943年: 後藤寺線の一部となり、漆生線は赤坂 - 漆生間と漆生 - 稲築間の支線となる
1966年: 漆生 - 下山田間を開業
1968年: 漆生 - 稲築間の支線を廃止
* 1986年: 全線廃止

廃線後の状況

漆生線が廃止されてから30年以上が経過しましたが、その痕跡は今もなお地域に残っています。

下鴨生駅から才田駅の手前までは道路として整備され、鴨生駅跡と漆生駅跡は公園として整備されています。鴨生駅跡公園には踏切や信号機が保存され、漆生駅跡公園には当時の写真が展示されています。また、才田駅跡には待合席とホームが残されており、当時の面影を伝えています。嘉穂信号場から下山田駅までの区間は、上山田線の項を参照してください。

代替交通

漆生線の廃止後、西鉄バス（現・西鉄バス筑豊）が代替バス路線を新設し、地域住民の移動手段を確保しました。

まとめ

漆生線は、筑豊の炭鉱開発と共に発展し、地域住民の生活を支えた鉄路でした。廃止から長い年月が経ちましたが、その記憶は、駅跡の公園や残された構造物を通して、今もなお語り継がれています。この路線は、日本の鉄道史における地方路線の変遷を語る上で、貴重な一例と言えるでしょう。

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