漉返紙

漉返紙（すきがえしがみ）とは

漉返紙は、使用済みの和紙、つまり反古紙を再度漉き直して作った中古の和紙を指します。この特異な紙は、古代から現代にかけて様々な異称を持ち、独自の文化的背景を有しています。

名称とバリエーション

漉返紙は多くの別名を持ち、宿紙、薄墨紙、綸旨紙、紙屋紙、熟紙、反魂紙、還魂紙などと呼ばれることがあります。これらの名称は、紙の使用目的や状態、伝承された文化によって変化してきました。

歴史的な背景

古の時代において、和紙は貴重な資源でありました。そのため、用済みの和紙を捨てることは稀で、通常は再利用されていました。具体的には、裏面に新たな筆記をする「紙背文書」や、再度漉き直して使うことが一般的でした。しかし、この再利用の過程で元の紙に残る墨が全て除去できず、結果的に薄墨色ともいえる鼠色に染まることが多かったため、薄墨紙という名称が生まれました。また、「宿」は古くからのものを意味し、「熟」は熟成されたものを指すことから、宿紙や熟紙の名称も生まれました。こうした中古の紙は新品よりも外見が劣ると見なされ、その質感を上げるために雁皮などを混ぜて使用することがありました。

故人を偲ぶ文化

古代の日本では、親しい人が亡くなった際に、その人の遺した手紙を漉き直して供養の一環とする習慣がありました。この行為は、故人の魂がこの紙に宿っていると信じられており、その上で写経を行うことで故人の安息を祈るものでした。こうした背景から、反魂紙や還魂紙という呼称が存在します。

公文書の再利用

また、朝廷では大量の不必要な公文書が生じるため、再利用を目的に和紙が大量に漉き直されていました。これを行う機関である図書寮紙屋院では、多くの漉返紙が製造され、その紙は再度朝廷で利用されました。このため、紙屋紙という呼び名も定着しました。実際、朝廷で発行される略式の命令書には貴重な新品の紙を使用すべきではないという慣習があったため、漉返紙が代用されていました。

有職故実の形成

この流れが進むにつれて、漉返紙には正式な作法が付与され、新品の紙を使用することはタブーと見なされるようになりました。その結果、綸旨には漉返紙を使用しなければならないという慣習が定着し、漉返しの紙は綸旨紙とも呼ばれるようになりました。なお、京都から独立した吉野朝廷（南朝）では、名誉のために新品の紙を作る際にわざわざ墨を混ぜて薄墨色の紙を作ることが行われたとされています。

江戸時代の変化

江戸時代に入ると、和紙の大量生産が可能となり、漉き直しの習慣が衰退しました。この結果、墨を混ぜて染めた用紙が薄墨紙や宿紙と呼ばれるようになるケースが一般化しました。

見逃せない関連項目

漉返紙を通じて、紙のリサイクルに関する知識や、日本の文化における紙の価値についての理解を深めることができます。

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