紙屋院

紙屋院：古代日本の製紙技術の中枢

紙屋院は、古代日本の律令制において朝廷用の紙を製造していた図書寮の付属機関です。簡単に言うと、当時の日本の官庁で使用する紙の専任工場のようなものでした。

創設と役割

紙屋院は、朝廷や官公庁で使用される新しい和紙（新規紙）と、古くなった和紙を再生利用した漉返紙（宿紙）の製造を主な業務としていました。紙屋院で作られた和紙は「紙屋紙」と呼ばれ、その名称は神亀5年（728年）の「正倉院文書」に既に確認できます。

養老律令によると、紙屋院は図書寮に属し、造紙技術者である造紙手4名とその下で働く品部（紙戸）50戸を擁していました。これらの職人たちは山背国（現在の京都府南部）に配置され、和紙生産に従事していました。

平安京への遷都と発展

平安京遷都後、紙屋院は京都の北野・平野の天神川（紙屋川）沿いに移転しました。この地は水資源が豊富で製紙に適していたためと考えられます。移転を機に設備の充実が図られ、生産規模も拡大したと推測されます。

延喜式には、紙屋院の年間生産量が規定されており、布紙、穀紙、麻紙、斐紙、苦参紙など、様々な種類の和紙を合計2万枚製造し、内蔵寮に納めていたことが記録されています。これらの和紙の種類は、原料や製造方法の違いを示しており、紙屋院では多様な技術が駆使されていたことが分かります。

後世への影響

南北朝時代になると、紙屋院自体は廃止されましたが、そこで培われた製紙技術と伝統は、京都の製紙業者に受け継がれました。特に、蔵人所を本所とする紙座（和紙の製造販売を行う組合）の一つである宿紙上座は、紙屋院の流れを汲む組織として知られています。紙屋院の技術と経験は、日本の製紙業の発展に大きな貢献をしたと言えるでしょう。

紙屋院と現代

紙屋院は、現代社会においてもその存在意義を伺い知ることができます。現在も日本の製紙業は世界的に高い技術力を誇り、紙屋院の伝統が脈々と受け継がれていると言えるでしょう。また、紙屋川周辺は、歴史的な製紙業の拠点として、その面影を残す場所となっています。紙屋院の歴史を知ることは、日本の伝統技術と文化を理解する上で非常に重要です。

まとめ

紙屋院は、古代日本における製紙技術の中心地として、朝廷への和紙供給を担う重要な役割を果たしました。その技術と伝統は、後世の製紙業に大きな影響を与え、現代日本の製紙技術の基礎を築く上で貢献しました。紙屋院の歴史を紐解くことは、日本の伝統技術と文化を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。

もう一度検索