演奏会用アレグロ (エルガー)

演奏会用アレグロ Op. 46

演奏会用アレグロ作品46（Concert Allegro, Op. 46）は、イギリスの作曲家エドワード・エルガーが1901年に完成させたピアノ独奏曲です。約10分ほどのハ長調の作品で、著名なピアニスト、ファニー・デイヴィスからの熱心な要望に応えて書かれた、エルガーがコンサート向けに発表した唯一のピアノ作品として知られています。

エルガーは、楽器としてのピアノに特に強い愛着を持っていたわけではなかったと言われています。それでも、新たなレパートリーを求めていたデイヴィスの度重なる依頼を受け、オペラ「ゲロンティアスの夢」の初演準備に追われる多忙な時期にもかかわらず、やや乗り気でないながらも作曲に着手しました。この作品は比較的短期間で書き上げられたためか、その過程で生じたと思われる性急な筆致の痕跡が楽譜から見て取れます。作曲の途中で、エルガーはデイヴィスに助言を求め、彼女は「謹んで、F.D.」と署名した手紙で多くの改善案を提示しました。エルガーは彼女の提案の多くを取り入れ、完成した作品はデイヴィスに献呈されました。

作品は1901年 12月2日、ロンドンのセント・ジェームズ・ホールで開催された「パーセルからエルガーへ」と題する演奏会で、献呈を受けたファニー・デイヴィス自身のピアノにより初演されました。しかし、その評判は芳しいものではありませんでした。当時のタイムズ紙の批評家は、この曲を「バッハとリストの結婚のよう」と評しましたが、初演全体については「説得力に欠ける」「どこか胡散臭い」といった厳しい評価が下されました。ある記者は、デイヴィスの演奏が作品に「致命傷を与えた」とまで述べたほどです。

こうした初演での不評や批評を受け、エルガーは作品の改訂を決断します。彼は一部の繰り返しを削り、全体の規模を縮小することを試みました。また、この曲をピアノ協奏曲へと作り替える構想も一時的に考えられましたが、この壮大な案は実現しませんでした。エルガーはその後、1913年にも別の主題によるピアノ協奏曲に着手しますが、こちらも未完成に終わり、彼の死後に他者によってまとめられ、Op. 90として出版されることになります。

改訂に着手した演奏会用アレグロでしたが、エルガーによる改訂作業は結局完成を見ることなく、楽譜は行方不明となってしまいました。初演の不評や改訂への意欲喪失が原因で、作曲家自身が作品をそのまま放置してしまった可能性も考えられます。1942年には、タイムズ紙の音楽評論家が楽譜の簡単な写しを見たことがあると証言しています。また、作曲家で指揮者のアンソニー・バーナードは、1942年以前にこの曲のピアノと管弦楽への編曲を依頼されますが、これを断りました。第二次世界大戦の戦火によりバーナードの研究資料や多くの書類が失われたため、演奏会用アレグロの楽譜もこれらの資料と共に失われたと考えられていました。しかし、1963年のバーナード死去の後、彼の未亡人によって書類の中からこの作品の草稿が発見されたのです。

発見された草稿には、多数の削除や加筆、そして夥しい数の修正が施されており、そのままでは演奏が困難な状態でした。そこで、ピアニストのジョン・オグドンと音楽学者のダイアナ・マクヴェイが協力し、演奏可能な楽譜を作成しました。オグドンはこの復刻された作品の価値を認め、1969年2月2日にイギリスのテレビ放送で初演を行い、その後も録音をリリースするなど、自身の重要なレパートリーとして積極的に演奏しました。現在までに、オグドンの版は他の多くのピアニストによって録音されています。また、エルガーが当初意図した全ての繰り返しを含む原典に近い版は、デイヴィッド・オーウェン・ノリスが再現演奏しており、さらにイアイン・ファーリントンによってピアノと管弦楽のための編曲も行われています。

この作品には、作品番号を巡る混乱が存在します。出典によってはOp. 41またはOp. 46のいずれの番号が用いられる場合もありますが、一般的にはOp. 46として知られています。エルガー自身の自筆譜にはOp. 41と記載されていますが、当時Op. 46は別の演奏会用序曲「フォルスタッフ」のために確保されていました。しかし、この序曲は日の目を見ませんでしたが、後に交響的習作「フォルスタッフ」（1913年）として発表され、Op. 68という番号と共に世に出ました。一方で、Op. 41にはアーサー・クリストファー・ベンソンの詩による2つの歌曲が割り当てられました。このような経緯から、演奏会用アレグロはエルガーの生前には出版されなかったにもかかわらず、後に出版される際にOp. 46という番号が与えられることになったのです。

作品自体の音楽的内容に加え、その作曲背景、初演での評価、楽譜の散逸、そして奇跡的な再発見という数奇な運命をたどる歴史は、演奏会用アレグロを単なるピアノ曲にとどまらない、興味深い物語を持つ作品として位置づけています。

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