史天沢

史天沢：モンゴル帝国を支えた漢人軍閥の雄

史天沢（1202年 - 1275年）は、モンゴル帝国（後の元朝）に仕えた漢人軍閥の一人。華北における漢人軍閥の重鎮として、その勢力と功績は元朝の成立に大きく貢献しました。

金朝からモンゴルへ

史天沢の一族は、元々金朝に仕えていました。しかし、金朝がモンゴルの攻勢に苦しみ、内紛を繰り返す中で、1213年に史天沢はチンギス・カンの有力な武将であるムカリに降伏し、モンゴルの家臣となります。兄の史天倪と共に各地を転戦し、武功を重ねますが、1225年に史天倪が南宋と内通した武仙によって殺害されるという悲劇に見舞われます。史天沢は仇敵である武仙を討ち、兄の後を継いで都元帥となりました。

漢人軍閥の重鎮として

史天沢は、モンゴル帝国における漢人軍閥の重鎮として、華北の漢人軍閥を率いて金討伐に貢献しました。1229年に第2代皇帝オゴデイ・カアンが即位すると、支配下の漢人軍閥を「三万戸」に再編し、史天沢はその長の一人に抜擢されます。これにより、史天沢は「真定・河間・大名・東平・済南」の五地域を統轄し、その軍団は「五路万戸」とも呼ばれました。

クビライへの忠誠

1258年より第4代皇帝モンケ・カアンの南宋親征が始まると、史天沢は精鋭軍を率いてモンケ軍に加わります。モンケの死後、クビライとアリクブケとの間で帝位継承争いが起こると、史天沢はモンケ軍を離脱し、クビライの元へ馳せ参じます。史天沢の行動は、クビライの擁立に大きく貢献しました。クビライは、史天沢率いる漢人精鋭部隊を中心に「武衛軍（後の侍衛親軍）」を組織し、これを直属の護衛部隊としました。内戦中最大の激戦となったシムルトゥ・ノールの戦いにも参加し、クビライ直属の中軍の左翼部隊を率いました。

李璮の乱鎮圧と宰相就任

1262年に山東地方で李璮の乱が起こると、史天沢は鎮圧に貢献します。李璮討伐後、クビライが第5代カアンに即位すると、史天沢は宰相に任じられ、漢人の軍閥解体と華北の再編、人材推挙やモンゴルの漢化政策などで多くの功績を立てました。

南宋攻略戦での活躍と晩年

1268年から始まった南宋攻略戦である襄陽の戦いでは、アジュと共に将軍の一人として参戦。南宋の名将・呂文煥の抵抗に苦戦するも、投石器の攻撃などで樊城を陥落させ、呂文煥を投降させるという大功を立てました。1274年、クビライより南宋攻略の大軍を率いる総司令官に任命されますが、高齢のために病に倒れ、バヤンを後任として推挙。1275年に74歳で亡くなりました。クビライはその死を惜しみ、鎮陽王に封じました。

史天沢の死後、子の史格が家督を継ぎ、史家は元朝を支える名門貴族として繁栄を続けました。

ペルシア語史料における史天沢

ペルシア語史料である『集史』では、史天沢は「サムカ・バアトル」という名前で記されています。これは、史天沢が史秉直の三男であったことに由来する通称であると考えられています。

史天沢は、激動の時代を生き抜き、モンゴル帝国の拡大と元朝の成立に大きく貢献した人物として、歴史に名を刻んでいます。

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