漱石悶々 夏目漱石最後の恋 京都祇園の二十九日間

漱石悶々：夏目漱石最晩年の恋物語

NHK BSプレミアムで2016年12月に放送されたスペシャルドラマ『漱石悶々　夏目漱石最後の恋　京都祇園の二十九日間』は、夏目漱石の生涯における最後の29日間を舞台にした物語です。没後100年を記念して制作された本作は、漱石の残した日記や書簡を元に、彼の秘めたる恋心を繊細かつユーモラスに描いています。

物語は、1915年（大正4年）3月、神経衰弱と胃潰瘍に苦しむ漱石が、友人の画家・津田青楓の誘いで京都を訪れることから始まります。京都の老舗旅館に滞在する中、漱石は祇園の芸妓で、お茶屋「大友」の女将を務める磯田多佳と出会います。多佳の知性と魅力に惹かれた漱石は、彼女との交流を通して穏やかな日々を送る一方で、複雑な感情に揺れ動きます。

北野天満宮での梅見の約束が反故になったことや、多佳を取り巻く他の男性（若手実業家や老舗旅館の主人など）の存在に、漱石は心穏やかではない時間を過ごします。葛藤と煩悶の日々の中、漱石は「大友」での宴席で胃潰瘍を悪化させてしまいます。多佳の温かい看病によって回復しますが、想いを伝えることなく、妻・鏡子の呼び寄せによって東京へ帰京することになります。

東京に戻った後も、漱石と多佳は熱のこもった手紙を交換し続け、互いの想いを確認し合います。しかし、この恋は成就することなく、物語は幕を閉じます。

このドラマは、漱石の知られざる一面を浮き彫りにし、彼の複雑な内面世界を鮮やかに描き出しています。豊川悦司が演じる繊細かつ魅力的な漱石像、そして宮沢りえが演じる気品と色気を兼ね備えた多佳の姿は、視聴者に強い印象を与えます。

豪華キャスト陣も大きな見どころの一つです。漱石役の豊川悦司、多佳役の宮沢りえを始め、林遣都、青柳翔、犬山イヌコ、六平直政、村上新悟、尾上紫、鈴木杏、白井晃、秋山菜津子など、実力派俳優たちが物語を彩ります。

脚本は、『ちかえもん』で向田邦子賞を受賞した藤本有紀、演出は『京都人の密かな愉しみ』でATP賞テレビグランプリを受賞した源孝志が担当し、高い評価を得ました。その高い演出力と脚本力によって、漱石の心情や京都の美しい情景が見事に表現されています。

『漱石悶々』は、夏目漱石という文豪の人間像を深く理解する上で、貴重な作品と言えるでしょう。歴史的にも重要な意味を持つこのドラマは、時代を超えて多くの視聴者の心を捉え、高い評価を得て、第33回ATP賞テレビグランプリ優秀賞（ドラマ部門）を受賞しました。 さらに、映像技術賞も受賞するなど、そのクオリティの高さが証明されています。漱石ファンのみならず、歴史ドラマ、恋愛ドラマファンにも強くお勧めできる作品です。

もう一度検索