潮音

『潮音』（ちょうおん）は、日本の短歌結社が発行する歌誌の一つです。大正時代に入って間もない1915年（大正4年）7月、歌人の太田水穂（おおた みずほ）によって創刊されました。潮音社の活動拠点は、古都として知られる神奈川県鎌倉市に置かれています。

『潮音』が誕生した背景には、太田水穂と親交の深かった歌人、若山牧水（わかやま ぼくすい）との関係がありました。太田水穂は当時、若山牧水が発刊していた歌誌『創作』（第二次）に対し、協力者として、また後援者として深く関わっていました。しかし、第二次『創作』は運営面などで次第に行き詰まりを見せ、継続が困難な状況に陥ります。この事態を受け、太田水穂は若山牧水と連携し、両者の門下生や関係者たちが集結する新たな短歌発表の場として、『潮音』を創刊するに至ったのです。当初は、太田水穂系と若山牧水系の歌人たちが共同で活動する連合体としての性格を持っていました。

しかし、『潮音』創刊からわずか一年後の1916年（大正5年）末、太田水穂と若山牧水は関係を解消し、それぞれ別の道を歩むことになります。若山牧水は翌1917年（大正6年）に自身の歌誌『創作』を再び復活させ（第三次『創作』）、活動を継続しました。一方、『潮音』は太田水穂が単独で主宰を務める形で存続することとなり、その後の歴史を刻んでいくことになります。

太田水穂が主宰を務めていた時代の『潮音』は、発行体制にも変化がありました。1920年（大正9年）からは、太田水穂と同郷（長野県）の出身である岩波茂雄（いわなみ しげお）が経営する岩波書店が、歌誌の発売元を担当することになりました。これは、当時勃興しつつあった大手出版社との連携という点で注目されます。

太田水穂が亡くなった後も、『潮音』は活動を停止することなく、その主宰・代表の座は太田家の血縁・姻戚関係者を中心に引き継がれていきました。まず、水穂の妻であった四賀光子（しが みつこ）が主宰を務め、結社を支えました。次に、水穂と光子の養子となった太田青丘（おおた せいきゅう）が代表を継承。青丘の後は、その妻（後妻）である太田絢子（おおた あやこ）が引き継ぎました。そして、現在は青丘の実子である木村雅子（きむら まさこ）氏が代表を務めており、創刊から一世紀以上にわたり、一貫した理念のもと運営が続けられています。

2015年には、創刊から満百年の節目を迎えました。この記念すべき年を祝い、『潮音』は、その年の7月号を「潮音創刊百周年記念号」として特別に発行しました。また、同年9月25日には、東京都内のパレスホテル東京において、「創刊百周年記念祝賀会」が盛大に開催され、多くの関係者や歌人たちが結社の長い歴史を祝いました。

『潮音』は、創刊以来、日本の近代・現代短歌史に足跡を残す多くの優れた歌人を輩出してきました。例えば、葛原妙子（くずはら たえこ）、中城ふみ子（なかじょう ふみこ）、春日井建（かすがい たける）、山名康郎（やまな やすろう）、高木佳子（たかぎ よしこ）といった歌人たちが、『潮音』の誌面を通じて、あるいは結社活動の中で活躍しました。彼らの業績は、『潮音』という結社が果たしてきた文化的役割の大きさを物語っています。現在も活動を続ける『潮音』は、日本の短歌界において重要な位置を占める結社の一つと言えるでしょう。

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