澤村宗十郎 (5代目)

五代目澤村宗十郎は、江戸時代後期の歌舞伎界で輝かしい足跡を残した名優です。享和2年（1802年）に生まれ、嘉永6年11月15日（1853年12月15日）にその生涯を閉じました。屋号は紀伊國屋、定紋に釻菊、替紋には波に千鳥を用いていました。また、訥子、高賀、訥升といった俳名も名乗っています。

その生い立ちは、市村座の芝居茶屋「泉屋」の下働きであった濱崎長吉の子として始まります。幼くして役者の道に入り、四代目澤村宗十郎の門下生となりました。この頃、初代澤村源平と名乗って初舞台を踏んだとされています。文化9年（1813年）、11歳を迎える年に師である四代目宗十郎と死別するという不幸に見舞われますが、彼は他の門流に移ることなく、紀伊國屋の家のもとで芸の研鑽を積みました。そして文化14年（1817年）、師匠がかつて名乗っていた二代目澤村源之助を襲名します。

その後、諸国を巡業しながら腕を磨き、文政7年（1824年）には大坂へ赴きました。竹田の芝居小屋で上演された『お染の七役』において見事な演技を披露し、これが大評判となります。この成功を機に、彼は一躍、関西歌舞伎界の人気役者の一人として認められるようになりました。

大坂での名声を得た宗十郎は、文政12年（1829年）に七代目市川團十郎の招きを受け、約9年ぶりに江戸の舞台へと戻ってきました。江戸での最初の大きな成功は、天保元年（1831年）3月、河原崎座での『苅萱桑門筑紫𨏍（かるかやどうしんつくしのいえづと）』でした。この芝居で加藤繁氏、与次、新洞という三つの役を見事に演じ分け、特に早替わりが好評を博し、53日間ものロングラン興行を記録する大ヒットとなりました。これにより、江戸でもその名声は不動のものとなり、翌天保2年（1832年）11月には初代澤村訥升と改名します。

その後も役者として順調に歩を進め、天保11年（1841年）にはついに座頭を務めるに至ります。弘化元年（1844年）7月、市村座で行われた師である四代目澤村宗十郎の三十三回忌追善興行において、『隅田春妓女容性（すだのはるげいしゃかたぎ）』の梅の由兵衛を演じ、五代目澤村宗十郎の名跡を襲名しました。

名優としての地位を確立した後も、彼は改名を重ねています。嘉永元年（1848年）11月には、中村座での『金幣長者将（きんぺいちょうじゃあげい）』に出演するにあたり、五代目澤村長十郎を襲名しました。しかし、嘉永5年（1852年）、時の将軍である徳川家慶に十四男長吉郎が誕生したことを受け、「長」の字を憚る必要が生じました。このため、同年9月、市村座での『鶊山姫捨松（うぐいすやまひめすてまつ）』の葛城の蔦主を演じる際に、三代目助高屋高助へと名を改めたのです。

晩年も精力的に舞台を務めていましたが、嘉永6年（1853年）11月、名古屋の橘町芝居に出演中、肺の病に倒れます。11月7日に休演を余儀なくされ、回復することなく11月15日に名古屋の地で客死しました。

役者としての五代目宗十郎は、恵まれた体格と端正な容姿で知られていました。紀伊國屋の家芸である和事を中心に得意としていましたが、それにとどまらず、時代物や女形でもその才能を発揮しました。特に『仮名手本忠臣蔵』の由良之助や、『菅原伝授手習鑑』の菅丞相、源蔵といった時代物の大役、さらには『鏡山旧錦絵』の岩藤、『伽羅先代萩』の政岡といった女形も演じ、いずれも観客から高い評価を得ています。

私生活では二男四女に恵まれました。その息子たちのうち、四代目助高屋高助と三代目澤村田之助は、父の跡を継いで幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎役者となりました。

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