濾胞傍細胞

濾胞傍細胞は、哺乳類の甲状腺内に存在する特殊な細胞群です。この細胞は、甲状腺を構成する濾胞の間や、濾胞壁を形成する濾胞細胞の間に散在して見出されます。濾胞傍細胞は、英語ではparafollicular cellと呼ばれ、その位置を示す傍濾胞細胞という別名でも知られています。また、この細胞が分泌する重要なホルモンにちなみ、C細胞（calcitonin cellsの略）とも称されます。

発生学的な観点から見ると、濾胞傍細胞の起源は神経堤と呼ばれる胚組織にあると考えられています。胚発生の初期段階で形成される第5鰓嚢から派生した鰓後体という構造が、後の発達過程で甲状腺組織に取り込まれることによって、濾胞傍細胞へと分化すると理解されています。興味深いことに、哺乳類以外の脊椎動物では、この鰓後体は甲状腺に融合することなく、独立した組織として体内に存在し続けます。

濾胞傍細胞は、形態的にも周囲の濾胞細胞とは異なる特徴を持っています。一般的に、濾胞細胞よりもサイズが大きく、組織標本を染色した際には、比較的薄く（弱く）染まる性質を示します。これらの細胞は、甲状腺濾胞を囲む一層の上皮細胞層である濾胞上皮上に、濾胞細胞と並んで配置されています。しかし、濾胞細胞によって外側から覆われているため、濾胞の内部に満たされているゼラチン状の物質、コロイドに直接接することはありません。かつては、甲胞状腺の濾胞と濾胞の間に広がる結合組織、すなわち間質にも濾胞傍細胞が存在すると考えられていた時期がありました。しかし、より高精細な電子顕微鏡を用いた観察技術の進歩により、全ての濾胞傍細胞が実際には濾胞上皮の構造内、基底膜の内側に位置していることが明確に示されています。通常、濾胞傍細胞は一つずつ孤立して存在していることが多いですが、時にはいくつかの細胞が集まって塊、すなわち細胞群を形成することもあります。細胞群として存在する傾向は、動物種によって異なり、特にイヌの甲状腺では、孤立している細胞よりも細胞群を形成している濾胞傍細胞が多く観察されることが報告されています。

濾胞傍細胞の最も重要な生理機能は、カルシトニンというポリペプチドホルモンを合成し、血中に分泌することです。カルシトニンは、体内のカルシウム代謝を調節する主要なホルモンの一つであり、特に骨に対する作用が知られています。具体的には、骨から血液中へカルシウムが溶け出すプロセスである骨吸収を抑制する働きがあります。これにより、血液中のカルシウム濃度が必要以上に上昇するのを防ぎ、正常なカルシウムバランスを維持するのに貢献します。

分泌されるカルシトニンホルモンのアミノ酸配列や、それによってもたらされる生理的な効果は、動物種によって違いが見られます。例えば、ヒトの体内で分泌されるカルシトニンは、血液中のカルシウム濃度を下げる作用を持ちますが、他の動物種、特に魚類や鳥類のカルシトニンと比較すると、その効果は比較的穏やかであると考えられています。このことは、ヒトにおいては、病気などで甲状腺全体を外科的に摘出した後も、血液中のカルシウム濃度が他のホルモン（主に副甲状腺ホルモン）によって正常範囲内に保たれることが多いという臨床観察からも示唆されており、ヒトにおけるカルシトニンのカルシウム代謝調節における役割は、他の動物ほど決定的ではない可能性が考えられています。

これに対し、サケ（鮭）から抽出されるサケカルシトニンは、ヒトのカルシトニンが持つカルシウム濃度低下作用の約10倍もの強力な効果を持つことが実験的に明らかにされています。この非常に強い骨吸収抑制作用とカルシウム濃度低下作用を利用して、サケカルシトニンは医薬品として開発され、臨床の現場で広く使用されています。主な適用疾患には、骨の代謝異常により骨が異常に分厚くなったり変形したりするパジェット病や、骨密度が低下して骨折しやすくなる骨粗鬆症などがあります。これらの疾患では、過剰な骨吸収を抑制することが治療の重要な目標となるため、サケカルシトニンの強力な作用が有効に働きます。また、サケカルシトニン以外にも、ウナギのカルシトニンを基に化学的に合成されたエルカトニンという薬剤も開発されており、同様に骨粗鬆症などの治療に臨床応用されています。このように、濾胞傍細胞が分泌するカルシトニンは、種によっては非常に強力な生理作用を持ち、ヒト医療においても重要な役割を果たしています。

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