瀬尾夏美

瀬尾 夏美

瀬尾 夏美（せお なつみ）は、1988年7月16日に東京都で生まれた日本の画家であり作家です。東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了し、絵画制作を専門としながらも、多様な表現活動に取り組んでいます。

活動の始まりと展開

瀬尾氏のその後の活動の大きな転機となったのは、2011年に発生した東日本大震災でした。震災発生後、被災地でのボランティア活動に参加した経験が、彼女の制作活動の方向性を大きく変えることとなります。このボランティア活動をきっかけに、映像作家の小森はるかと共にユニットを結成し、被災地での記録や表現活動を開始しました。このユニットでの活動は、絵画という平面的な表現に加え、映像やテキストといった異なるメディアを横断する試みへと繋がっていきます。

2013年からは、その活動の場を岩手県陸前高田市へと移し、約3年間にわたり地域に根差した活動を展開しました。この期間、被災した土地の風景やそこに暮らす人々の日常、そして震災の記憶に深く向き合いました。単なる外部からの視点ではなく、生活者としての視点から、土地の現在と過去が織りなす複雑な層を描き出そうとしました。

NOOKの設立と活動

2015年には、自ら中心となって団体「NOOK」を設立し、その代表理事に就任しました。NOOKは、被災地をはじめとする場所での「取材」「記録」「表現」を活動の柱としており、個人的な制作の枠を超え、より組織的・継続的な活動を行うための基盤となりました。傾聴や対話を通じた人々の語りの収集、風景やモノの記録といった多岐にわたる活動を展開し、それらを基に絵画、文章、映像、インスタレーションなど、様々な形で表現しています。

著作活動とプロジェクト

瀬尾氏は文章表現においても精力的に活動しており、その思索や記録は複数の書籍として結実しています。2019年には、2011年から2017年にかけて自身が発信したツイートをまとめた書籍『あわいゆくころ 陸前高田、震災後を生きる』を晶文社より刊行しました。この本は、個人的な記録であるツイートという形式を通して、震災後の時間の経過と共に変化する被災地の風景や自身の内面を率直に描き出しており、大きな反響を呼びました。続く2021年には、書肆侃侃房より『二重のまち/交代地のうた』を、2023年には生きのびるブックスより『声の地層: 災禍と痛みを語ること』を上梓するなど、継続的に著作を発表しています。

また、単著のほか、複数の共著にも参加しています。2019年の『ららほら』（響文社）、2022年の『ベスト・エッセイ2022』（光村図書出版）、2023年の『文学ムック ことばと』（書肆侃侃房）など、その活動は文学や評論といった分野にも広がっています。

2022年には、新たなプロジェクト「カロクリサイクル」を始動しました。このプロジェクトでは、東日本大震災に留まらず、自然災害や戦争など、様々な「災禍」を体験した人々の語りや記録を多様なメディアを用いて収集・アーカイブ化し、未来へと繋いでいくことを目指しています。

表現に込められたもの

瀬尾夏美氏の活動全体を貫くのは、失われたもの、変わりゆくもの、そして残されたものを注意深く見つめ、記録し、それを表現として再構築しようとする姿勢です。特に、震災後の被災地という場所と時間の中で、人々の記憶や声、日常のささやかな出来事が持つ重みに光を当てています。絵画、文章、映像、プロジェクトといった形式を柔軟に使い分けながら、「災禍」という出来事がもたらした傷跡と、それでもなお続いていく人々の生、そして場所が内包する歴史や記憶の層を、丁寧かつ多角的に描き出しています。その活動は、現代社会における「記憶」や「記録」、「語り」のあり方、そして表現の力が持ちうる可能性を問い続けています。

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