瀬川清子

瀬川清子の生涯と民俗学への貢献

瀬川清子（1895年10月20日 - 1984年2月20日）は、日本の民俗学者であり、元大妻女子大学教授です。秋田県鹿角市で生まれ、激動の時代を生き抜きながら、女性の視点から民俗学の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと教育

1895年、瀬川清子は秋田県鹿角郡毛馬内町（現在の鹿角市）で、岩船源太郎、スケ夫妻の長女として誕生しました。幼名はキヨ。母親は清子が一歳になる前に亡くなり、その後は叔母や祖父によって育てられました。1909年、14歳で毛馬内尋常高等小学校を卒業。教員資格試験に合格し、翌年から小学校の教壇に立ちました。1922年までの間、小学校教師として教鞭を執り、その間1917年に同僚教師であった瀬川三郎と結婚しています。

民俗学への転身

小学校教師を退職後、瀬川は上京し東洋大学専門部倫理学東洋文学科に入学。1924年、25年に国語科と漢文科の免許を取得し卒業。川村学院教諭を経て、1926年、第一東京市立中学校（現・東京都立九段高等学校）に勤務しました。民俗学への関心が高まったきっかけは、1931年に夫である三郎と共に小笠原諸島を旅行した際の紀行文を学校の校友雑誌に掲載したことでした。この旅行を機に、郷土会のメンバーであった地理学者、小田内道敏の調査に参加するなど、積極的にフィールドワークを行うようになります。

1933年、夫の三郎がギリシャへ旅行に出発した際、一人で能登半島舳倉島の海女の調査を行い、その見聞記「舳倉の海女」を柳田國男と比嘉春潮が編集する雑誌『嶋』に投稿しました。この投稿が柳田國男の目に留まり、その才能を高く評価された瀬川は、柳田が主催する研究会「木曜会」に招かれ、全国山村調査、海村調査に参加することになります。

女性民俗学者としての活躍

柳田國男の還暦を祝う日本民俗学講習会で講師を務めた瀬川は、1936年に「女性と労働」、1937年に「海女の話」と題した講演を行いました。また、女性を中心とした「女性民俗座談会」の開催にも尽力し、後の女性民俗学研究会（女の会）へと発展させました。1943年からは大妻女子大学の非常勤講師となり、翌年には第一東京市立中学校を退職。終戦後は同大学に勤務しながら、九学会連合の合同調査やアイヌの調査などに参加し、婚姻習俗や若者組などの研究に力を注ぎました。

晩年と業績

晩年は夫に先立たれたことや健康上の不安から研究活動は減りましたが、夫が生前調査を行ったギリシャやミクロネシア、モンゴル、南米などを旅行しました。1983年に病に倒れ、翌1984年2月20日に88歳で生涯を閉じました。彼女の遺骨は故郷である秋田県鹿角市大湯の大円寺に、夫である三郎と共に埋葬されています。

瀬川清子の調査地は生涯で300箇所近くにのぼり、その数は同時代の民俗学者の中でも突出しています。彼女の功績は、全国山村調査や海村調査における貴重な民俗資料の収集に大きく貢献したことです。特に、海村調査においては、軍事施設が多い海浜地帯での調査が困難を極める中、15もの海村を訪れて調査を行いました。

瀬川は、女性の視点から捉えた民俗研究の必要性を早くから提唱していた柳田國男の思想を体現し、衣食住と女性に関わる民俗に焦点を当てました。当時の社会では「良妻賢母」という価値観が重視されていましたが、瀬川は、そのような価値観とは異なる、生活の中にある多様な女性の姿を描き出そうとしました。彼女の研究によって、農漁村における女性の労働、婚姻、若者組制度、衣食住の生活変化など、多岐にわたる事実が明らかにされました。

受賞と著書

瀬川清子の業績は高く評価され、1980年にエイボン女性年度賞、1981年には『女の民俗誌―そのけがれと神秘』で柳田國男賞を受賞しました。著書には、『祭の話』（柳田國男と共著）、『女の本―若き友におくる民俗学』（女性民俗学研究会と共編著）、『日本民俗学のエッセンス』（植松明石と共編著）などがあります。

瀬川清子の生涯は、女性が社会で活躍することが困難であった時代に、自らの意志と努力で道を切り開き、民俗学の発展に大きく貢献した女性の姿を示すものです。彼女の研究は、現代においても私たちに多くの示唆を与え続けています。

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