比嘉春潮

比嘉春潮（ひが しゅんちょう）

比嘉春潮は、1883年（明治16年）1月9日に沖縄県西原町で生まれ、1977年（昭和52年）11月1日に生涯を終えた、沖縄史研究者、社会運動家、そしてエスペランティストです。

生い立ちと教育

比嘉は、中頭郡西原間切翁長（現在の西原町）の出身で、琉球王国の士族である駱氏比嘉家の末裔です。この家系は、尚質王の妻を輩出した名門でもあります。

1906年（明治39年）に沖縄師範学校を卒業後、小学校教諭となり、1914年（大正3年）には玉城小学校の校長に就任しました。しかし、1910年に伊波普猷と出会ったことがきっかけで、「沖縄学」への関心を深めていきます。また、河上肇との交流を通じて社会主義にも興味を持つようになりました。

ジャーナリズムと研究活動

1918年（大正7年）、比嘉は教職を辞し、「沖縄毎日新聞」と「沖縄朝日新聞」の記者として活動を始めます。その後、沖縄県吏となりますが、船上で柳田國男と知り合ったことが転機となり、1923年（大正12年）に県庁を辞めて上京し、改造社に入社しました。改造社では出版部主任を務める傍ら、柳田の下で民俗学を研究し、沖縄学研究を深化させました。また、伊波らと共に南島談話会に参加し、研究活動を活発化させました。

社会運動とエスペラント

戦後、比嘉は沖縄人連盟の設立メンバーの一人となり、在京の沖縄出身知識人とともに沖縄文化研究会を立ち上げ、沖縄学の振興と沖縄返還運動に尽力しました。

エスペラントとの出会いは師範学校時代に遡ります。仲原善忠の勧めで本格的に学習を始め、日本エスペラント協会に入会しました。1920年代には、労働者のためのエスペラント運動を提唱するSAT（国民性なき全世界協会）の影響を受け、プロレタリア・エスペラント運動の中心人物として活躍しました。しかし、戦時中に日本エスペラント学会が時局に迎合する姿勢を強めると、「自分の考えるエスペラント運動ではない」として脱会しています。戦後には、ベトナム戦争に抗議して焼身自殺したエスペランチスト・由比忠之進の追悼集会を発起しました。

関東大震災での受難

1923年（大正12年）の関東大震災時、比嘉は淀橋（現・新宿区）に住んでいました。震災後、自警団から朝鮮人と疑われ、身の危険を感じる場面もありました。警察に助けを求めたものの、交番でも同様のやり取りが繰り返され、危うく危害を加えられそうになりました。最終的に淀橋署に連れて行かれ、無事保護されました。また、甥の春汀も自警団によって「朝鮮人」と間違われ、暴行を受け、留置所に拘束されるという悲劇に見舞われました。

年譜

1906年 - 沖縄で小学校教諭となる
1917年 - 那覇および首里でエスペラント講習会を指導
1919年 - 沖縄県庁に入庁
1923年 - 東京で改造社に編集者として就職
1945年12月 - 沖縄人連盟の発起人の一人となる

著書

『沖縄の歴史』 沖縄タイムス社 1959
『沖縄の歳月 自伝的回想から』 中公新書 1969
『比嘉春潮―沖縄の歳月 自伝的回想から』 人間の記録：日本図書センター 1997
『沖縄の歴史 新稿』 三一書房 1970
『比嘉春潮全集』 沖縄タイムス社 1971-1973
第1-2巻 歴史篇
第3巻 文化・民俗篇
第4巻 評伝・自伝篇
第5巻 日誌・他
『蠹魚庵漫章』 勁草書房 1971

共著

『沖縄』 霜多正次、新里恵二共著 岩波新書 1963
『沖縄の犯科帳』 崎浜秀明共編訳 平凡社 東洋文庫 1965
『山村海村民俗の研究』 大間知篤三・柳田國男・守随一共編 名著出版 1984

比嘉春潮は、沖縄の歴史と文化を深く愛し、その研究と普及に生涯を捧げた人物です。また、社会運動家、エスペランティストとしても、多方面で活躍しました。彼の業績は、今日においても高く評価されています。

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