瀬戸の染飯

瀬戸の染飯：東海道を彩る歴史の味

静岡県藤枝市上青島地区（旧青島村）で、戦国時代から続く伝統的な食品「瀬戸の染飯」。東海道藤枝宿の代表的な名物として、古くから旅人に親しまれてきました。その歴史と文化的な価値から、文化庁の日本遺産『日本初「旅ブーム」を起こした弥次さん喜多さん、駿州の旅』にも認定されています。

染飯の製法と特徴

瀬戸の染飯は、餅米を蒸して作った強飯（こわめし）を、クチナシの実で鮮やかな黄色に染め上げます。その後、すり潰して平たい小判形、三角形、四角形などに成形し、乾燥させて作られます。クチナシには古くから薬効があるとされ、消炎、解熱、利尿などの効果があるといわれています。東海道は険しい山道も多く、旅の疲れを癒す滋養食として重宝されたようです。

歴史と文化

瀬戸の染飯は、江戸時代には藤枝宿と島田宿の間にある「瀬戸の立場」と呼ばれる休憩所で販売されていました。多くの旅人が行き交う東海道において、染飯は休憩の際に立ち寄る人々にとって、旅の疲れを癒す貴重な食料でした。

その歴史は古く、1553年（天文22年）の『参詣道中日記』や、1582年（天正10年）の『信長公記』にも記述が見られることから、戦国時代から存在していたことがわかります。東海道の街道名物としては最古級と言えるでしょう。

染飯は、旅の記録や文学作品、絵画などにもしばしば登場します。小林一茶は1792年（寛永4年）の西国旅行記の中で藤枝での染飯を詠んでおり、『東海道名所図会』（1797年）、葛飾北斎の『東海道中五十三駅狂画』（1804年頃）、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』（1802年～1814年初刊）などにも描かれています。これらの作品を通して、染飯が当時の東海道における重要な食文化の一部であったことがわかります。

藤枝市には、「瀬戸御染飯」と書かれた壺の絵が描かれた版木が現存しており、市の指定有形民俗文化財となっています。藤枝市の「千貫堤・瀬戸染飯伝承館」では、この版木や江戸時代の染飯レプリカなど、染飯に関する歴史資料を見ることができます。

現代の染飯

現在でも藤枝市内の弁当店「喜久屋」などで販売されていますが、現代の染飯は乾燥させずに、おにぎり状に成形したものが主流となっています。2020年には、静岡県東海道宿場に関する歴史的事物が文化庁の日本遺産に認定され、瀬戸の染飯も「構成文化財」として含まれました。2021年には藤枝市が市内飲食店と協力して現代版染飯のレシピ集を公開するなど、伝統を守りながら現代風にアレンジされた染飯は、現在も多くの人々に愛されています。農林水産省の郷土料理データベースにも掲載され、その歴史と味が広く知られています。

瀬戸の染飯は、単なる食品としてだけでなく、東海道の歴史と文化を伝える貴重な存在と言えるでしょう。その歴史と味を未来へ繋いでいくためにも、これからも大切に保存・継承していく必要があります。

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