瀬戸欣哉

瀬戸 欣哉

瀬戸 欣哉（せと きんや）氏は、1960年（昭和35年）6月25日生まれの日本のプロ経営者です。製造業向けのインターネット通販大手である株式会社MonotaROの創業者としても知られ、現在では株式会社LIXILグループの取締役代表執行役社長兼CEOを務めています。これまでに11社のベンチャー企業を立ち上げた経験を有しています。

東京都杉並区に生まれた瀬戸氏は、武蔵中学・高等学校を経て、東京大学経済学部を卒業しました。さらに、経営学を深く学ぶため、米国のダートマス大学経営大学院に進み、1994年に経営学修士（MBA）を取得しています。

1983年に住友商事株式会社に入社し、キャリアをスタートさせました。同社では主に鉄鋼部門に配属され、米国での勤務経験も積みました。商社勤務時代の経験を活かし、2000年には住友商事の社内ベンチャーとして、現在のMonotaROの源流となる「住商グレンジャー」を設立。翌2001年にはその代表取締役社長に就任しました。モノづくりに必要な資材をインターネットで販売するという独自のビジネスモデルを構築し、事業を軌道に乗せます。そして2009年、株式会社MonotaROを東京証券取引所市場第一部に上場させるという大きな成功を収めました。MonotaROはその後も驚異的な成長を続け、日経ビジネスの2016年1月11日号に掲載された「成長率ランキング100」では、リーマンショック以降の期間で日本国内1位、世界でも9位の成長率として紹介されています。2021年2月時点では、MonotaROの株価は上場以来約400倍に達し、出身母体である住友商事の時価総額を一時的に上回るほどの発展を遂げました。

MonotaROでの顕著な実績が評価され、2016年にはLIXILグループの前身企業であるトステムの創業家出身で、当時取締役会議長を務めていた潮田洋一郎氏から招聘を受け、株式会社LIXILグループの代表執行役兼COO、後に社長兼CEOに就任しました。瀬戸氏がLIXILグループの経営を担うことになった当時、同社は過去5年間で5000億円を超える大型M&Aを行った結果、660億円もの損失を計上しているという厳しい状況にありました。MonotaROをゼロから立ち上げ、急成長させた実績が、LIXILの経営再建を託される決め手となった形です。

しかし、2018年、瀬戸氏は株式会社LIXILグループのCEOを突然解任されるという事態に直面します。この解任の背景には、当時の取締役会議長であった潮田氏が、LIXILをプライベート・エクイティ・ファンド（CVC）に買収させて非公開化し、本社をシンガポールに移転する計画を進めようとしたことに対し、瀬戸氏が反対したことが一因とされています。実際、当時の潮田氏は月の半分以上をシンガポールで過ごし、会社の経営から距離を置いているような状況でした。

この解任決定プロセスには、欧米の機関投資家から疑問の声が上がりました。2018年12月にはマラソン・アセット、2019年1月にはブラックロックといった大手投資ファンドが、会社側に対して説明を求める書簡を提出するなど、LIXILグループの企業統治（コーポレートガバナンス）のあり方を厳しく問う動きが広がりました。そして2019年6月25日に開催された定時株主総会は、会社側と瀬戸氏を含む機関投資家グループの間で「プロキシーファイト（委任状争奪戦）」が繰り広げられる場となりました。瀬戸氏側は、自身のCEO復帰と、自身が指名する人物の取締役就任を求める株主提案を行いました。総会では、株主から会社側の解任経緯に関する説明責任を問いただす声が相次ぎ、採決の結果、瀬戸氏らの株主提案が可決され、瀬戸氏は再び株式会社LIXILグループのCEOに返り咲くことになりました。この結果に対し、会社側についた元CEOの藤森義明氏は「太陽が西から昇るようなものだ」と悔しさを滲ませたと言われています。この出来事は、「物言う株主」の主張が経営陣を退かせ、企業統治の改善に繋がった事例として、日本のコーポレートガバナンス史上、極めて大きな意味を持ったと評価されています。CEOに復帰した後、LIXILグループの株価は順調に回復し、2021年9月時点では復帰後7割以上の上昇を見せました。

瀬戸氏は経営手腕のみならず、その人物像にも特徴があります。身長184cmと体格が大きいため、初対面の人からはまずその大きさに言及されることが多いようです。2017年に当時の山本公一環境大臣と意見交換した際も体格の話題となり、「放射能の影響で大きくなりました」と冗談で発言したところ、福島第一原子力発電所事故に触れるものとして不適切であると問題視され、後に謝罪しています。これは、当時公開されていた映画「シン・ゴジラ」をイメージした場で和ませるための発言であったようですが、公共の場での発言として配慮に欠けていたことを認めました。

小学生時代は宿題をほとんどせず、先生や母親を困らせる子供だったと語っています。喧嘩の強さが自慢だったこともあったようです。中学は武蔵中学校に進学しましたが、これは3歳上の兄が通っていたこと、そして当時開成中学は坊主が必須だったこと、さらに武蔵が週休2日で制服がなかったことが理由だったといいます。学生時代はバスケットボールに熱中し、中高でバスケットボール部に所属。東京大学時代にはボクシング部に入部しました。また、母校である武蔵高校のバスケットボール部コーチも務め、区大会でもほとんど勝てなかった弱小チームを都大会に進出するレベルにまで育て上げるという指導力を発揮しています。高校時代はバスケットボールに打ち込みすぎて、高校3年生の6月、インターハイ出場決定試合に敗れるまで受験勉強を全くしておらず、初めて受けた模擬試験ではマークシートの使い方も分からなかったにも関わらず、現役で東京大学に合格しています。

中学からの同級生で歴史学者の本郷和人氏は、高校時代の瀬戸氏について、「スポーツマンで朗らかな彼の周囲にはいつも友だちの輪があり、実社会の中で業績を積み重ねるタイプで外に広く柔軟に開かれていく頭脳明晰さを持っている人物だった」と評しています。また、歴史学者の大津透氏、建築史家で工学院大学理事長を務める後藤治氏、宇宙航空研究開発機構（JAXA）宇宙科学研究所長の國中均氏、医学者の柳沢正史氏、元外交官で現在は弁護士の吉野正己氏も中学・高校の同級生にあたります。東京大学では経済学部の土屋ゼミに所属していました。

経営者としてのキャリアにおける主要な変遷は以下の通りです。1983年に東京大学経済学部を卒業後、住友商事に入社。米国での勤務を経て、2000年に株式会社MonotaRO（前身）設立に関与し取締役に就任、2001年に代表取締役社長となります。2009年のMonotaRO東証一部上場を経て、2016年には株式会社LIXILグループ代表執行役兼COO、後に社長兼CEOに就任。2018年に一度解任されるも、2019年の株主総会での勝利を経て、再び株式会社LIXILグループ取締役代表執行役社長兼CEOに就いています。2019年には紺綬褒章を受章しました。また、2023年には国連が主催するSWA（Sanitation and Water for All）の評議員に就任するなど、国際的な活動も行っています。

メディアへの出演としては、テレビ東京系列の「日経スペシャル カンブリア宮殿」（2018年8月23日放送）や「知られざるガリバー〜エクセレントカンパニーファイル〜」（2023年12月9日放送）に社長として出演しています。著書に『製造コスト削減の盲点 経営改善のヒント』（幻冬舎、2013年）があります。

もう一度検索