瀬本容子

瀬本容子（せもと ようこ、1930年 - ）は、岡山県倉敷市出身の画家、芸術家です。中世からルネサンス期の古典技法を基に、板、ガラス、羊皮紙にテンペラ画を描く独自のスタイルを確立しています。絵具の原料には、ラピスラズリ、ローズマダー、イカの墨といった天然素材を使用し、額縁の制作も自ら行うなど、作品全体への強いこだわりが特徴です。銀座を中心に各地で個展を開催し、幻想的な女性、子供、果実、風景などを題材とした作品を数多く発表しています。

生い立ちと芸術への目覚め

1930年、岡山県浅口郡玉島町（現在の倉敷市）で、五人兄弟の長女として生まれました。父親は証券業を営んでいました。自由学園女子部で学んだ学生時代には、倉敷の大原美術館で白樺派の武者小路実篤や志賀直哉、梅原龍三郎、安井曾太郎らの座談会や、ラザール・レビィのピアノ演奏に触れ、芸術への関心を深めました。この経験が、画家を志す大きなきっかけとなりました。その後、武蔵野美術大学油絵科に進学しますが、1957年に中退。同年には、岡山県展で入賞を果たし、自由美術協会展にも二度出品しています。

パリ留学とテンペラ画との出会い

1962年、念願だったフランス・パリへ留学し、グランド・ショミエール芸術学校に在籍しました。パリでは、教養のある婦人との出会いをきっかけに、フランス料理やファッションショーなどの文化に触れ、語学の習得や美術館巡りにも励みました。この時、ヨーロッパ各地で出会ったテンペラ画に魅了され、その技法を習得したいという強い思いを抱くようになりました。留学から3年後にはアメリカ旅行も経験しています。

帰国後の活動と独自の画風の確立

1966年に帰国すると、都内にアトリエを構え、日本での制作活動を再開しました。以前から親しんでいた寺院や仏像と、留学中に見た中世ルネサンス期の宗教的な木造に共通点を見出し、特に十一面観音をモチーフに選ぶようになりました。ヨーロッパで見たテンペラ画を、日本で入手できる画材を使って独学で制作する試みもこの頃から始めました。東京藝術大学で金地テンペラ画のゼミを持っていた田口安男の研究室に通い、実験と研究を重ねていきました。同時に、銀座のみゆき画廊やミキモトのギャラリーなどで定期的に個展を開催しました。

1990年には美術出版社から作品集『一千一枚の花びら』を刊行し、2年後にはえでぃしょん光村から作品集『真夏の夜の夢』を刊行。銀座を拠点に各地で個展を開きながら、三省堂の文部省検定教科書高等学校国語科用表紙にも作品が起用されました。1997年には、日本橋髙島屋で個展を開催し、婦人之友社の雑誌『婦人之友』のカットや表紙絵も手掛けました。さらに、文化出版局の雑誌『ミセス』にも作品が掲載されるなど、幅広い分野で活躍しました。

近年の活動と受賞

2004年にはテレビ朝日「徹子の部屋」に出演し、2010年にはニューヨークで個展を開催。2016年には岡山県立美術館で個展を開催するなど、精力的に活動を続けています。2018年には、長年の芸術活動が認められ、紺綬褒章を受章しました。

作品の収蔵と主な個展開催場所

瀬本容子の作品は、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館、世田谷美術館、宇都宮美術館、岡山県立美術館など、数多くの美術館や施設に収蔵されています。また、みゆき画廊、村松画廊、中央公論画廊、岡山天満屋画廊、日本橋髙島屋など、各地のギャラリーで個展が開催されています。

掲載書籍と主な著書

瀬本容子の作品は、多くの書籍や雑誌にも掲載されています。佐藤愛子『マリアの恋』の表紙絵や、岩田裕子『妖精のように生きてみたい』のカバー装画などを手掛けています。主な著書には、『一千一枚の花びら』や『真夏の夜の夢』などがあります。これらの書籍を通して、彼女の芸術世界に触れることができます。

瀬本容子は、その独自の技法と幻想的な作風で、多くの人々を魅了し続けています。中世ルネサンスの古典技法を基盤に、現代の感性を融合させた作品は、国内外で高い評価を受けています。

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