点字楽譜

点字楽譜とは

点字楽譜は、視覚に障害のある人々が音楽を理解し、演奏するために用いられる点字で記述された楽譜です。この独自の楽譜体系は、ルイ・ブライユによって開発されたブライユ点字の初期から存在し、音楽の世界において視覚障害を持つ人々に大きな貢献をしてきました。

点字楽譜の歴史

点字楽譜の歴史は、ブライユ点字の発明者であるルイ・ブライユに深く関わっています。彼はもともと教会のパイプオルガン奏者であり、点字の発明後、文字としての点字よりも先に点字楽譜の表記体系を完成させました。ブライユが点字を1825年に発明した後、1834年には点字楽譜の体系を確立し、その3年後の1837年に文字としての点字表記法を発表しました。この事実は、ブライユが音楽に対して特別な関心を持っていたことを示しています。日本においては、1893年に佐藤国蔵が点訳した『国民唱歌集』が初の点字楽譜とされています。

点字楽譜の記譜法

点字楽譜の基本的な考え方は、五線譜上の音符や記号を、曲の進行に合わせて一列に点字で表現することです。音符の上下や横に配置される記号は、その種類によって音符の前に置くか、後に置くかが決まっています。

音符と休符

音符と休符は、点字の上の4つの点（1、2、4、5の点）で音の高さや休符であることを表し、下の2つの点（3、6の点）で音の長さを表します。全音符と16分音符のように、同じ点字を用いるものもありますが、実際の楽曲では極端に長い音符と短い音符が隣接することは稀で、曲調や小節の長さから容易に推測できるため、実用上の問題は少ないです。

音列記号

点字楽譜では、1オクターブ以上の音を表現するために音列記号が使用されます。音列記号は、音符の前に置かれ、どのオクターブの音であるかを指定します。これにより、ト音記号などの音部記号は通常必要とされません（必須ではない）。ただし、曲の流れからオクターブの変化が明らかな場合は、音列記号が省略されることもあります。

付点

付点は、音符の後に付点の記号を置くことで表現されます。

臨時記号

臨時記号（シャープ、フラット、ナチュラル）は、音符の前にそれぞれの記号を置くことで表現されます。

スラー・タイ

スラーを表す記号には、長さによって使い分けられる3つの主な記号があります。スラーの始まりは音符の前に、終わりは音符の後に配置されます。

強弱記号・発想記号

文字で表現される強弱記号や発想記号は、特定の符号を前に置き、その後にアルファベットで記述されます。

音部記号

点字楽譜では音列記号を用いるため、音部記号は必ずしも必要ではありません。しかし、楽譜の理解やピアノ演奏における右手用楽譜・左手用楽譜の区別のためなど、音部記号が使用されることもあります。

計算機による処理

近年では、コンピュータ技術を利用して、墨字楽譜（通常の五線譜）を自動的に点字楽譜に変換する技術や、逆に点字楽譜から五線譜（MusicXML形式）に変換する技術も開発されています。日本では、横浜国立大学のプロジェクトチームが中心となり、楽譜自動点訳システム (BrailleMUSE) が開発・公開されています。このシステムは、墨字楽譜と点字楽譜の構造の違いを考慮し、自然言語処理などの技術を応用して開発されています。点字楽譜と五線譜の相互変換は、多義性の解消など多くの課題があり、開発は現在も進行中です。

著作権

著作権法第37条により、著作物の点訳は著作権者の許諾なしに自由に行うことが認められています。これは楽譜にも適用され、点字楽譜の作成やデータベース化も、著作権者の許諾なしに行うことができます。また、公衆送信（送信可能化を含む）も認められており、点字楽譜の普及を促進する上で重要な役割を果たしています。

関連項目

記譜法
目の見えない音楽家
* 鈴木米次郎

出典

[1] 自動点訳システムに関する記述
[2] 点字楽譜から五線譜への変換に関する記述

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