烏帽子親

烏帽子親（えぼしおや）とは

烏帽子親とは、主に中世の武家社会において、男子が成人を迎える元服の儀式で、烏帽子を被せる役目を担った仮の親のことです。元服を迎える者は烏帽子子（えぼしご）と呼ばれ、烏帽子親との間に擬制的な親子関係が結ばれました。

烏帽子親の役割と意味

元服の儀式では、烏帽子親が烏帽子子に烏帽子を被せることで、その者が社会的な一人前の成人として認められることを意味しました。また、この際に烏帽子親が烏帽子子に新しい名前（諱）を与えることもありました。この名前は烏帽子名と呼ばれ、烏帽子親から一字を貰う「偏諱（へんき）」とすることが多く、両者の関係をより強固なものとしました。

『吾妻鏡』には、源頼朝が乳母の子である小山朝光の烏帽子親を務めたという記録が残っています。このように、烏帽子親は主君や一門の棟梁、信頼できる有力者などが務めることが多く、その選定は非常に重要でした。

鎌倉幕府では、烏帽子親と烏帽子子の関係は血縁関係と同等に扱われ、文暦2年（1235年）の追加法では、評定の際の退座分限（参加禁止者）として、親族と共に烏帽子子も含まれていました。これは、烏帽子親と烏帽子子の関係が、社会的に非常に重要な意味を持っていたことを示しています。

室町時代以降は、元服の儀式で烏帽子を被せる代わりに前髪を剃り落とすことが多くなりましたが、この前髪を剃る役目も烏帽子親が担いました。また、幼くして即位した天皇の元服では、摂政と太政大臣を兼ねる者が加冠役を務めるのが通例でした。

鉄漿親との関連

武家社会だけでなく、公家社会でも同様の成人儀式がありました。女子の成人儀式である裳着における腰結、鉄漿親（かねおや・はぐろおや）も、烏帽子親と同様に仮親が成人を祝う儀式です。これらの儀式は現在でも一部の地域で残っており、日本の伝統文化として受け継がれています。

擬制的な親子関係

烏帽子親には、貴人や有力者、あるいは一族の長老などが選ばれ、鉄漿親には貴婦人や裕福な一族の目上の女性などが選ばれました。これらの仮親は、当座の庇護だけでなく、将来にわたっての世話や指導を期待され、烏帽子子や鉄漿子もまた、仮親に対して忠誠を尽くすことが求められました。

しかし、戦国時代のような混乱期には、烏帽子親と烏帽子子の関係が必ずしも良好なものとは限りませんでした。例えば、今川義元が井伊直盛の烏帽子親となったにもかかわらず、後に両家が敵対関係になるなど、悲劇的な事例も多く見られました。

このように、烏帽子親は単なる儀式的な役割ではなく、その後の人間関係や社会的な立場にも深く関わる重要な存在でした。

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