無伴奏ヴァイオリンソナタ (プロコフィエフ)

セルゲイ・プロコフィエフ：ヴァイオリン・ソナタ 作品115 ニ長調

セルゲイ・プロコフィエフが1947年に創作したヴァイオリン・ソナタ 作品115は、その成立過程において特筆すべき異彩を放つ楽曲です。通常、「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」と題される作品は、一人の独奏ヴァイオリンのために書かれるのが一般的ですが、本作品は原典において、多数のヴァイオリン奏者が同一の旋律を同時に演奏する「斉奏（ユニゾン）」のために構想されたのです。楽譜には「多数のヴァイオリンによる斉奏、または単一のヴァイオリンによる演奏のための」と記されており、作曲者自身が独奏での演奏も許可していたため、今日では専ら「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」として、一人のヴァイオリニストによって演奏される機会が圧倒的に多くなっています。

このユニークな作品が生まれた背景には、当時のモスクワにおける音楽活動がありました。1940年代後半、モスクワのボリショイ劇場では、多くのヴァイオリン奏者が集まり、J.S.バッハやヘンデルといったバロック時代の作曲家によるヴァイオリン作品を、その響きの豊かさを活かしたユニゾンで演奏する試みが行われていました。プロコフィエフはこの演奏に触発され、この特別な編成のための楽曲を自身の創作として生み出すことを思い立ちます。その着想を得てから、彼は比較的短期間のうちに、このニ長調のソナタを完成させました。

作品は1952年に出版されましたが、その初演は作曲家プロコフィエフの死後まで待たねばなりませんでした。独奏版としての世界初演は、1959年7月10日、モスクワ音楽院において、著名なヴァイオリニストであるルッジェーロ・リッチによって行われました。一方、本来の意図であった多数のヴァイオリンによる斉奏版の初演は、それからさらに遅れて、翌1960年にモスクワ音楽院の小ホールにて、学生たちによって実現されました。このように、このソナタは作曲から初演まで、そしてその演奏形態においても、通常の作品とは異なる興味深い歴史をたどっています。

楽曲は全3楽章で構成されており、全体を通した演奏時間は約12分程度です。各楽章は明確な性格の違いを持ち、ヴァイオリンの多様な表現力が引き出されています。

1. 第1楽章：モデラート
4分の4拍子、ニ長調。ソナタ形式で書かれており、安定したテンポの中で、主要な主題が提示、展開、再現されます。ユニゾンによる重厚な響きや、独奏ならではの細やかな表現が求められます。
2. 第2楽章：アンダンテ・ドルチェ
4分の4拍子、変ロ長調。穏やかで甘美な主題に基づいた変奏曲です。主題の提示に続き、5つの変奏が続きます。それぞれの変奏は主題を変奏しながらも、オリジナルの旋律線の特徴を保ちつつ、様々な音楽的なアイデアや技巧が凝らされています。
3. 第3楽章：コン・ブリオ
4分の3拍子、ニ長調。活気に満ちた楽章で、「マズルカ風のフィナーレ」と称される通り、ポーランドの民族舞曲であるマズルカのリズムや性格が取り入れられています。急速なテンポとリズミカルな推進力が特徴で、華やかな雰囲気のうちに曲を締めくくります。

プロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ作品115は、そのユニークな成立背景と、斉奏・独奏双方で演奏可能という柔軟性、そしてプロコフィエフらしい明快さと豊かな旋律を持つ楽曲構成によって、ヴァイオリン音楽の中でも独自の地位を占めています。特に独奏版においては、ヴァイオリニストにとって、作曲家の意図した響きをどのように一人で表現するかという課題を提示する、挑戦的なレパートリーの一つとなっています。

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