無原罪の御宿り

無原罪の御宿り：聖母マリアと原罪からの免除

カトリック教会において、聖母マリアが原罪の汚れを一切受けていなかったとする教義が『無原罪の御宿り（Immaculata Conceptio）』です。1854年、教皇ピウス9世によって正式な信仰箇条として宣言されました。これは、マリアがイエスを宿した時に原罪が潔められたという意味ではなく、マリアが誕生の瞬間から原罪を免れていたとするものです。

教義の根拠

この教義の根底には、カトリック教会における原罪観があります。原罪とは、人間の誕生における超自然の神の恵みの欠如とされ、キリストはまさにこの原罪を取り除く救世主です。マリアは、キリストの救いにもっとも完全な形で与った者とされます。ルカによる福音書「おめでとう、恵まれたかた」の言葉は、マリアが神から特別な恵みを受け、存在の初めから神と一致していたことを示唆すると解釈されています。

無原罪の御宿りは、マリアが神と一致し、生涯を通じて人のいのちの完成に至ったこと、そして人類に対するキリストの救いのわざのもっとも完全で典型的な現れであると位置付けられています。聖母の被昇天と共に、マリアの特異性を示す二つの重要な教義とされています。

歴史的背景

マリアの至潔さは、古代教会において既に認識されていました。2世紀のエイレナイオスや4世紀のキュリロスは、マリアを第二のエヴァと呼び、アウグスティヌスやアタナシオスも彼女の清らかさを称えました。9世紀にはパスカシウス・ラドベルトゥスがマリアの無原罪を唱え、中世には西欧で広く信じられるようになりました。

11世紀には、ギリシアの修道士がローマ近郊に修道院を建設し、聖母の御宿りの祝日を普及させました。12世紀にはエアドメルスが『聖母マリアの御やどりについて』を執筆、神学的な体裁を整えた初めての無原罪の御宿りの記述となりました。フランシスコ会、イエズス会などもこの教義を擁護しました。

しかし、トマス・アクィナスを始めとするスコラ学者の中には、キリストの普遍的な救済力を損なうとして、この教義を否定する者もいました。中世を通じて賛否両論が続きましたが、1449年のバーゼル公会議では「敬虔で教会の典礼、カトリック信仰と合致するもの」とされました。その後も、複数の教皇が賛成派を支持するなどしてきました。

トリエント公会議では明確な教義宣言はありませんでしたが、1[[9世紀]]にはスペインを中心に信仰が浸透し、1854年、教皇ピウス9世の回勅によって無原罪の御宿りは公式に教義として宣言されました。12月8日は無原罪の御宿りの祝日となっています。

他のキリスト教教派の見解

正教会、復古カトリック教会、プロテスタント諸教派は、無原罪の御宿りを否定します。正教会では、マリアは至聖なるものとして崇敬されますが、原罪を免れていたのはイエスを受胎した後であるとされています。マリアの無原罪懐胎説は新しく、異端的な考え方であると捉えられています。旧約時代の義人とのつながりを弱めてしまうという批判もあります。復古カトリック教会は、聖伝を8世紀以前のものに限定するため、この教義を認めません。プロテスタントの大半は、マリア崇敬の概念自体を持たないため、無原罪の御宿りを否定します。

まとめ

無原罪の御宿りは、カトリック教会における重要な教義であり、聖母マリアの特異性を示すものです。その歴史的背景や、他のキリスト教教派との見解の違いを理解することで、カトリック信仰の深さと複雑さをより深く理解することができます。この教義をめぐる議論は、今日でも信仰と神学の重要なテーマであり続けています。

もう一度検索