無我利道場

無我利道場とは

無我利道場（むがりどうじょう）は、1970年代に鹿児島県大島郡宇検村に存在した、ヒッピー文化を背景としたコミューンです。この共同体は、石油基地建設計画を巡る地域社会の対立をきっかけに生まれ、独特な歴史を歩みました。

誕生の背景

1973年、東亜燃料工業（現ENEOS）による石油備蓄基地建設計画が、宇検村の枝手久島で浮上しました。この計画は村を二分する深刻な対立を生み、その中で、ヒッピー文化に共鳴するYという人物が、基地反対派のリーダーであったNとHの誘いを受け、1975年に村へ移住しました。彼に共感する人々も集まり、共同生活を始めたのが無我利道場の始まりです。

「無我利」という名前は、奄美方言で「憤る」を意味する「ムガル・ムガリ」が由来であり、当て字として用いられました。この言葉は「偏屈者」という意味も持つとされ、共同体の特異な性格を表す言葉として選ばれたと考えられます。

地域社会との共存と軋轢

当初、無我利道場は、過疎化に悩む村にとって数少ない若者の集団であり、基地反対という共通の目的を持っていたことから、地域住民との間で良好な関係を築いていました。しかし、1984年に東亜燃料工業が建設計画を断念した後も、無我利道場は村に留まり続けました。

1986年、無我利道場のメンバーの子どもたちが地元の学校の制服着用を拒否したり、義務教育を拒否して不登校になったり、地域活動への不参加を表明したことがきっかけで、地域住民との関係は徐々に悪化し始めます。1988年には、右翼団体である松魂塾のメンバーが村にやってきて常駐を開始、地元住民も「無我利道場解体村民会」を結成し、「無我利（偏屈者）追い出し」を訴えました。

1988年10月30日には、松魂塾が道場を襲撃し、メンバーの一人が重傷を負うという事件も発生しました。この事件をきっかけに、無我利道場問題は全国的に知られることとなりました。

その後

1989年9月、無我利道場は、世間から胡散臭い団体というイメージを持たれていることを受け、「無我利道場」という名称を廃止し、生活スタイルも家族ごとの生活に変え、地域活動にも参加する姿勢を見せるなど、地域住民に譲歩する姿勢を示しました。しかし、住民の不信感は拭いきれず、反対運動はその後も継続され、デモ活動や民事訴訟が相次いで起こりました。最終的に和解が成立したのは1993年でした。

入植を斡旋したNは、現在「琉球民族独立総合研究学会」のメンバーであり、沖縄県と奄美群島を日本から独立させるための運動を行っています。

反発の一因

無我利道場は、ヒッピー仲間の他に、左翼活動家との交流がありました。その中には、神社本庁爆破事件などの爆弾テロ事件を起こした加藤三郎を匿っていた女性も含まれていました。彼女は指名手配犯であり、無我利道場に滞在していた際も身分を隠していましたが、1983年に創設者のYが逮捕される原因となりました。また、1988年には日本赤軍に関わる旅券法違反の疑いで家宅捜索を受けたことから、無我利道場と極左団体との交流が公になり、右翼団体の介入を招く一因となりました。

参考文献

旧無我利道場『島に生きる 追放運動三年目の報告』インパクト出版会、1990年

関連項目

ヒッピー
コミューン
加藤三郎 (新左翼)

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