無着成恭

無着成恭：教育と禅の道を歩んだ生涯

無着成恭（むちゃく せいきょう、1927年3月31日 - 2023年7月21日）は、日本の教育者であり、禅宗の僧侶です。本名は同じ。彼は、戦後の教育界に大きな足跡を残し、特に生活綴方運動を推進した人物として知られています。

生涯

山形県に生まれた無着成恭は、山形師範学校を卒業後、山元中学校に赴任しました。そこで、国語教育の新しい方法として「生活綴方」に取り組み、生徒たちの生活記録をまとめた文集『きかんしゃ』を制作しました。この文集に収録された「母の死とその後」は文部大臣賞を受賞し、彼の教育実践は全国的に注目を集めました。

1951年、クラス文集を『山びこ学校』として刊行すると、その内容は多くの人々の心を捉え、ベストセラーとなりました。しかし、その一方で、「村の貧しさを世間にさらした」として地元から非難を浴び、村を追われることとなりました。

その後、無着成恭は上京し、駒澤大学仏教学部で学びました。卒業後は明星学園の教諭となり、教頭も務めました。この時期には、言語学者の奥田靖雄らと共に、科学的・体系的な言語教育に取り組み、その成果は『続 山びこ学校』としてまとめられました。

1964年からは、TBSラジオ「全国こども電話相談室」のレギュラー回答者として28年間も活躍し、子どもたちの悩みや疑問に寄り添いました。1983年に明星学園を退職し、1987年からは一鍬山福泉寺の住職として仏道に入りました。その後、泉福寺に転任し、2023年に96歳で亡くなるまで、教育者、僧侶として精力的に活動しました。

教育者としての功績

生活綴方運動

無着成恭の教育活動の中心は、生徒たちが自らの言葉で生活を語り、表現する「生活綴方」でした。彼は、教科書に頼るのではなく、子どもたちの日常や感情に寄り添い、そこから学びを引き出すことを重視しました。彼の教育理念は、子どもたちの主体性を尊重し、一人ひとりの個性を伸ばすことにありました。

『山びこ学校』

『山びこ学校』は、無着成恭の教育実践を象徴する作品です。この本は、山村の子どもたちが綴った文章を通して、彼らの生活や感情を生き生きと伝えています。この作品は、戦後の教育界に大きな衝撃を与え、多くの教育者たちに影響を与えました。

全国こども電話相談室

「全国こども電話相談室」での無着成恭は、子どもたちの素朴な質問や悩みに、優しく、時にユーモアを交えながら答えていました。彼の言葉は、子どもたちの心に寄り添い、安心感を与えました。この番組での活動を通じて、彼は多くの人々に親しまれる存在となりました。

僧侶としての側面

無着成恭は、教育者であると同時に、禅宗の僧侶でもありました。彼は、仏教の教えを基盤に、人間としての在り方を深く追求し、その考えは多くの著作にも反映されています。彼の著書からは、教育に対する深い洞察と、人間愛に溢れた温かい眼差しが感じられます。

晩年

晩年は、妻の介護のため、別府市に移り住みました。2023年7月21日、敗血症性ショックのため、96歳でその生涯を閉じました。彼の教育と禅の道は、多くの人々に影響を与え続け、その功績は永遠に語り継がれるでしょう。

エピソード

山形新聞社の須藤克三との出会いが、彼の教育活動に大きな影響を与えた。
テレビ嫌いで知られていたが、1974年に日本テレビの教育番組の構成に関わっていた時期があった。
「全国こども電話相談室」では、「宇宙人は何を食べてるの？」という質問に対し、「宇宙食を食べている」と答えて他の回答者を笑わせた。
永六輔と親交があり、辛淑玉の生前葬で読経をあげた。
死亡説が流れたことがあった。

受賞歴

1970年：第1回斎藤茂吉文化賞
1979年：第3回正力松太郎賞

主な著作

『山びこ学校』
『続 山びこ学校』
『教育ノート』
『ぼくの青年時代』
『子どもの本220選』
『教育をさがせ』
『教育の恐ろしさとたいせつさ』
『禅にまなぶ』
『おっぱい教育論』
『無着成恭の詩の授業』
『ヘソの詩』
『人それぞれに花あり』
『倶会一処』
『宗教って何ですか』
『無着成恭の昭和教育論』
『無着成恭：ぼくの青春時代』
『忸怩戒』

関連作品

佐野眞一『遠い「山びこ」 無着成恭と教え子たちの四十年』
佐藤藤三郎『山びこ学校ものがたり』
佐藤藤三郎『ずぶんのあだまで考えろ』
映画『山びこ学校』

無着成恭の教育に対する情熱と、子どもたちへの温かい眼差しは、これからも多くの人々に勇気と希望を与え続けるでしょう。

もう一度検索