無罪モラトリアム

椎名林檎 1stアルバム『無罪モラトリアム』

『無罪モラトリアム』は、1999年2月24日に東芝EMIからリリースされた椎名林檎のファーストスタジオアルバムです。この作品は、170万枚を超える売り上げを記録し、ミリオンセラーとなりました。1年半にわたりチャートインし続けるというロングヒットを記録しました。

アルバム概要

先行シングル『ここでキスして。』のヒットを受け、アルバムは発売後、長期間にわたりチャートインしました。本作に収録された楽曲は、椎名林檎が10代の頃に制作したものが中心で、歌謡曲、パンク、グランジ、ジャズなど、さまざまなジャンルの音楽を折衷したサウンドが特徴です。オルタナティブなサウンドとキャッチーなメロディ、文学的で刺激的な歌詞が、幅広い世代のリスナーを魅了しました。

このアルバムの楽譜は、多くのバンドスコアを出版しているリットーミュージックで長年人気を保っており、1999年のリリースから15年以上経っても高い人気を誇っています。2008年には、デビュー10周年を記念してリマスタリングされたBOXセット『MoRA』やアナログ盤もリリースされました。初回生産盤には、抽選でVHSビデオがもらえる応募券付きの特殊ブックレットが付属していました。

アルバムのコンセプト

アルバムタイトルには、「社会に適合できないモラトリアムな瞬間は誰にでもある。自分自身のために『それは無罪だ』と言いたい」という椎名林檎のメッセージが込められています。タイトルは「無罪」と「モラトリアム」の頭文字から「MM」と略されることがあります。椎名林檎は「初めてのアルバムなので、昔から歌っていた曲をたくさん入れたい」という意向から、収録曲はすぐに決まり、その結果、「十代の椎名林檎の集大成」のようなアルバムとなりました。

アルバム制作においては、歌詞の世界観を表現することよりも、音楽的な自己紹介としての意味合いが強かったようです。椎名林檎は、自身の音楽的な名刺代わりとして、自分のやり方を分かりやすく提示するために、あえてデフォルメした表現を試みました。また、デモ音源との差異が生じた際には、音楽的な誤解を招かないように注意を払ったといいます。

アートワーク

アルバムのジャケットデザインは、アート[[ディレクター]]の木村豊が担当しました。椎名林檎は、自分が完全に浮いてしまっている場所で写真を撮りたいと考え、「裁判所で弁護士が『無罪』と書かれた旗を持っているところに自分がポツンといたら面白いのでは」というアイデアを出しました。デザイナーの木村豊はこれに賛同し、新聞記者や報道カメラマンなどのエキストラを集めて撮影が行われました。旗の題字は椎名林檎自身が手書きしたものです。

制作の背景

楽曲制作の準備段階で、当時の東芝EMIの担当ディレクター篠木雅博は、外部から実績のあるディレクターを招聘しました。しかし、その外部ディレクターによる大幅な手直しを椎名林檎が拒否したため、意見が対立しました。篠木も椎名林檎の詞曲に違和感を覚えていましたが、彼女の個性を最大限に引き出すためには、旧来のディレクション方法を捨て、自由に制作させるしかないと判断しました。その結果、椎名林檎とアレンジャーの亀田誠治の2人にすべてが委ねられました。

当時、椎名林檎はまだ十代であり、予算が限られていることを理解していたため、レコーディングはシンプルなバンドサウンドで行うことになりました。メンバーは亀田誠治によって集められ、アレンジを固めずに自由なセッションで曲を作り上げる、「バンド演奏による一発録り」という手法が採用されました。レコーディングでは主に2つのバンドを使い分け、曲によってギタリストの個性を生かすことを意識しました。また、バンドサウンドだけでなく、必要に応じてストリングスなども取り入れ、「何でもあり」のサウンドを目指しました。

批評

音楽評論家の平山雄一は、本作を「繊細さと猥雑さが混ざり合った、バランスを全く考えていない作品」と評価しました。また、「曲の中でボーカルスタイルが分裂し、曲自体は短いのにとてもヘビーな聴き応えがある」と述べ、椎名林檎の音楽性を高く評価しました。さらに、「『茜さす 帰路照らされど･･･』は極端。つぶやいたかと思うと、美しく歌い上げる」「『丸の内サディスティック』はBLANKEY JET CITYの浅井健一の使い方に聴きながら笑い出していた」と具体例を挙げて解説しています。また、「インスピレーションに富んだフレーズが次々と飛び出し、彼女の生き方や愛、音楽と自分との闘いの足跡を臆することなく並べている」と評し、椎名林檎の10代の軌跡を称賛しました。

収録曲

1. 正しい街
- 18歳の時に制作された曲。福岡にいた当時の恋人との別れを歌った曲で、歌詞には福岡の地名が登場します。アルバムの1曲目に収録されることは、椎名林檎の強い希望でした。
2. 歌舞伎町の女王
- 2枚目のシングル表題曲。歌舞伎町を舞台にした楽曲で、渋谷でアルバイトをしていた時にスカウトマンに声をかけられた経験が元になっています。ドラムは椎名林檎本人が演奏しています。
3. 丸の内サディスティック
- 2枚目のシングル『歌舞伎町の女王』のカップリング曲として発表されました。歌詞には、椎名林檎が尊敬する浅井健一の愛称「ベンジー」が登場します。デビュー前にイギリスで制作され、仮歌詞は全て英語でした。
4. 幸福論（悦楽編）
- デビューシングル『幸福論』のアルバムバージョン。シングルバージョンとは大きくアレンジが異なり、ヴォコーダーを使用しています。
5. 茜さす 帰路照らされど･･･
- 16歳の頃に制作された曲。歌詞に登場する「アイルランドの少女」は、クランベリーズのドロレス・オリオーダンを指しています。
6. シドと白昼夢
- 19歳になる前に制作された曲。プログラミングとバンドサウンドによるアレンジが特徴です。
7. 積木遊び
- 椎名林檎が「箸休め的なお遊び曲」と語る楽曲。シンセサイザーで琴の音色を再現しています。
8. ここでキスして。
- 3枚目のシングル表題曲。多くのミュージシャンにカバーされ、椎名林檎の代表曲の一つとなっています。
9. 同じ夜
- アコースティックギターとヴァイオリンによるシンプルな編成の曲です。
10. 警告
- 過去の恋人への不満を綴った曲です。
11. モルヒネ
- 19歳の時に制作された曲です。

アナログ盤

アナログ盤もリリースされています。

クレジット

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脚注

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